コネクテッドカー・メディアの未来

自動車は5Gやデジタルテクノロジーを搭載することにより、コネクテッドカーに生まれ変わってきている。常にインターネットに接続した状態で走行しているコネクテッドカーはドライバーの安全性や利便性を向上させるだけではなく、メディアとしても活用できるようになってきている。グローバルメディアエージェンシーIPG Mediabrands のニューヨーク本社でメディア戦略を担当する副島奈美氏とAPACでメディア戦略を担当するSharon Soh氏が、コネクテッドカー・メディアの未来を予測するとともに、ブランドや代理店がコネクテッドカー・メディアをどう活用すべきかを説明する。

コネクテッドカーとは?

コネクテッドカーとは直訳すると、「つながっている車」という意味になるが、定義としてはインターネットを介した通信機能を搭載した車のことを指す。自動車はいままでもナビ機能やGM社のOnStarなどの緊急通報システムを搭載していたが、コネクテッドカーと呼ばれ始めたのは4Gなどを通じてインターネットへの常時接続が可能になり、自動車がデジタル化し始めた過去10年ほどだ。イメージとしては、電話機がスマートフォン化したように自動車もコネクテッドカーになりつつある。(注1)

また、スマートフォンが急速に増えていったように自動車も今後コネクテッドカーに移行すると予測されている。調査機関のTechnavioによると、コネクテッドカーは2021年から2025年にかけて年平均成長率13%が見込まれるとしており、特にアジアでの成長がいちじるしいと予測している。(注2)

 

出典: Technavio コネクテッドカー・プラットフォームの世界市場 地理的セグメンテーション

コネクテッドカーのメディア化

コネクテッドカーの利点として、運転手にとっての安全性、利便性の向上、また都市渋滞の緩和などが挙げられるが、ネットに接続することにより、音楽・映像などのエンタテインメント価値も向上する。スマートフォンと同様、ストリーミングサービスやアプリなどが搭載されることにより、車内で様々なコンテンツを楽しむことが可能になるわけだ。(注3)

“The goal for the infotainment system is to say what’s the most amount of fun you can have in a car.”— Elon Musk, CEO of Tesla

「インフォテインメント・システムの価値は車内でどれだけの楽しみを提供することができるか、にある」イーロン・マスク、テスラCEO

また、今後セルフ・ドライビング(自動運転)や音声コマンドが更に発達すれば、事故などの恐れなく運転手さえもインタラクティブ・コンテンツを楽しむことができるようになる。アウディ社はセルフ・ドライビングにより生まれうる余暇を25th Hour(25時間目)と呼んでおり、スタートアップのHolorideとパートナーシップを組み、運転している間にゲームを楽しむ、といった実験をしている。(注4)

“Turn every ride into a theme park ride.”- Nils Wollny, CEO Holoride

「すべての乗り物をテーマパークの乗り物に変えましょう」―ニルス・ウォルニー、ホロライドCEO

もちろんスタートアップだけでなく、コネクテッドカーのメディア化をリードしようとしているのは、スマートフォンのOSを提供しているアップルとグーグルだ。アップルはApple CarPlay、グーグルはAndroid Autoを自動車会社に提供しており、また、中国ではアリババやテンセントといったビッグ・テックもこぞってBMWなどの自動車会社と提携をしている。OSを搭載した自動車は様々なアプリを提供できるようになる。現在は音楽・ビデオ・ナビなどが主な機能だが、今後テレコン機能、ショッピング、ソーシャルメディア・ゲームなど様々なアプリが提供されるようになるだろう。(注5)



出典:Apple CarPlay(注6)

ブランドにとってコネクテッドカー・メディアの価値とは

消費者が車内で様々なコンテンツを楽しむようになれば、当然ブランドにとっては新しい接点が生まれる。また、自動車の利点として、位置情報がわかるため、どのようなコンテンツを楽しんでいるか、だけでなく、どこで何をしているか、といった情報が手に入るようになる。例えば、車で買い物に行こうとしている人に向けて、新しい商品の情報を提供したり、旅行をしている人に対して、地元の名産品の広告を流したりすることが可能になるわけだ。
もちろん、このようなデータを利用するためにはプライバシーを考慮する必要がある。また、運転手に対する安全性も考えないといけないため、どのようなタイミングでどのようなフォーマットの広告を提供するかは、完全自動化が進むまで、気をつけなくてはならない。ただし、コネクテッドカーが重要なメディアであることには変わりなく、今後ブランドにとって新たな広告価値を生み出すことになるだろう。

“Connected cars will open new channels to communicate in hyper-relevant ways with consumers in the moment of potential purchase.” Sharon Soh- Chief Planning & Audience Officer, UM APAC

「コネクテッドカーは、購入の瞬間に消費者に関連性の高いコミュニケーションをするための新しいチャネルになるでしょう」シャロン・ソー、Chief Planning & Audience Officer, UM APAC(注7)

出典

(注1)
https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/h27/html/nc241210.html

(注2)
Global Automotive Connected Car Platform Market | APAC to occupy 42% market share and notice faster growth | Technavio (prnewswire.com)

(注3)
Why the future of the automotive industry is connected cars | World Economic Forum (weforum.org)

(注4)
https://www.audi.com/en/innovation/development/holoride-virtual-reality-meets-the-real-world.html

(注5)
https://techcrunch.com/2023/05/10/all-the-ways-google-is-driving-deeper-into-the-automotive-world/
https://www.bmw.com/en/innovation/connected-car.html
https://www.zdnet.com/article/ces-2019-alibabas-tmall-genie-assistant-comes-to-bmw-vehicles-in-china/
https://www.tencent.com/en-us/articles/2201068.html

(注6)
https://www.apple.com/ios/carplay/

(注7)
What’s NEXT 2023: Connected cars driving growth of media tech platforms - MARKETECH APAC (marketech-apac.com)

 

IPGメディアブランズ

IPGメディアブランズは、インターパブリックグループ(IPG)において、データ分析に基づきメディアおよびデジタルを通じたマーケティングソリューションを提供する企業グループです。メディアブランズは、クライアントのエージェンシーとして世界中で約400億ドルのマーケティング投資を管理しています。また、数々のアワード受賞歴を誇るフルサービスエージェンシーネットワークのUMとInitiative、および革新的ソリューションのスペシャリスト組織であるReprise、MAGNA、Orion、Rapport、Mediabrands Content Studio、IPG Media Lab等を通じて戦略的なサービスとソリューションを提供しています。 メディアブランズのクライアントには、幅広い業種にわたり、世界で最も知名度の高い、アイコニックなブランドが多数含まれています。また、130カ国以上でダイバーシティに富む13,000人以上のマーケティングスペシャリストが活躍しています。日本では、メディアプランニングとバイイングの両方を提供できる唯一のグローバルエージェンシーです。1960年のマッキャンエリクソン博報堂設立以来、2007年のIPGメディアブランズジャパン設立を経て、グローバルと国内双方のクライアントと取引を持っている。

執筆者 副島奈美 Nami Soejima

父の仕事の関係で小学校時代をアフリカで過ごす。日本の中学・高校を卒業後米イェール大学に進み、政治経済を専攻。その後東京のソニー(株)に就職し、本社スタッフとして東京・NYオフィスで働く。2003年に米コロンビアビジネススクールに進み、MBAを取得。卒業後は戦略コンサルティング会社、デジタル・エージェンシ―を経て、現在グローバルの大手広告代理店ユニバーサル・マッキャンにてグローバルメディア戦略を担当。クライアントのビジネス成長のために必要となるターゲット層の分析やデータを活用したターゲティング手法などを担っている。2児の母として、女性スタッフの活躍もサポートしている。

 

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