3月29日、第16回「販促コンペ」が応募を開始した。「販促コンペ」は、企画を生業としているクリエイターだけではなく、プランナー・クリエイターの卵である学生も同じ土俵で戦う「企画の異種格闘技戦」。そして、その企画を審査するのもまた、業界の第一線で活躍するプロたち。ただのアイデアだけに留まらない、「人が動く企画」を審査するのが彼らだ。ここでは、審査員4名に「販促コンペ」の「傾向」と「対策」について語り合ってもらった。
「消費者の心をしっかりつかむ、本質的な企画が
一周回って、強くなってきているように感じます」
(電通 來住氏)
「どれだけ労力をかけないでその人を動かすことができるか
っていう視点も大事ですよね」
(ADKマーケティング・ソリューションズ 貞賀氏)
「企画に固有名詞を付けるっていうのも
1つのテクニックかもしれません」
(電通プロモーションプラス 菊池氏)
「『この辺の落としどころになるだろう』から一歩進んで、
どれだけ企画を突き詰めていけるかが重要です」
(Droga5 Tokyo 津田氏)
それぞれ経験年数の異なる審査員4名が集結
──本日は、第16回「販促コンペ」の審査員を務める4名に集まっていただきました。改めて、読者に向けて自己紹介をお願いします。
貞賀:ADKマーケティング・ソリューションズの貞賀です。最近は新規事業の立ち上げやスタートアップ事業の社会実装を手伝ったりしています。販促コンペにはちょうどコロナ禍の時に参加したので、審査員を務めるのは今年で4年目になります。
菊池:電通プロモーションプラスの菊池です。クリエーティブを中心にコピーやCM領域を担当することが多いです。第1回「販促コンペ」の日本コカ・コーラの課題でグランプリを受賞したご縁もあって、そこからずっとコカ・コーラさんのお仕事をさせていただいています。私は去年から審査員に参加したので、今年で2年目ですね。
津田:津田と申します。僕は、昨年12月からアクセンチュア ソング傘下のDroga5 Tokyoに所属していますが、前職では音楽配信サービスや風邪薬などを担当していました。審査員は今年で何年目になるのかな……。むしろ教えてほしいくらい(笑)。
來住:電通の來住です。よろしくお願いします。最近は、ニチレイ「本格炒め炒飯」のテレビCMといったCR領域から、KATE「リップモンスター」のバーチャルワールドなどデータを駆使して顧客体験を変えていくようなCX領域まで幅広く担当しています。私もこの取材を受けるにあたって計算してみたら、2016年から審査員を務めているので今回で9年目になります。なのでその前から参加されている津田さんは確実に2桁にいっていると思いますよ(笑)。
企画のシンプルさと実現可能性の高さ
──初めて審査をされた時から、「販促コンペ」応募企画に対する印象は変わりましたか?
貞賀:やっぱり3年前と比べて応募数が増えましたね。プランナーや普通の社会人、学生など様々なバックボーンを持つ方が応募していますし、○○部門といったカテゴリを設けていないので、その分自由度の高い企画が多いのはずっと変わらない印象です。
來住:最初に審査員を務めた8年前と比べて、全体的なレベルが上がっているのは感じます。審査員初期の時は、どうにかしてどれかを上に上げないといけないのか……と悩むことも正直ありましたが、最近は逆にどれも落としたくないなと悩んでしまっています。
津田:本当にそう。作品全体のクオリティが底上げされていますね。逆にある種のテンプレートっぽさを感じさせる企画も増えてきているような気がします。
菊池:いかに自分らしい企画をつくっていけるかがより重要になってきていますよね。でもやっぱり自分が応募したときから、「人が動く実現性のある企画」っていう評価の軸は変わっていないと感じます。
──これまでの「販促コンペ」で、皆さんが特に印象に残っている作品はどのようなものでしょうか。
津田:一番記憶に残っているのは、原稿にぎっしりとその商品との個人的な物語を書き綴った作品ですね。「自由だな!」と思いましたし、やっぱり企画の根っこには人の情熱があるんだなと。
菊池:そういう熱意とか思いが見える企画はやっぱり印象に残りやすいですよね。あとは「これがあったらいいな」を感じさせるような、実現しているのが具体的に想像できるものは強いと思います。第12回でグランプリを獲得した「キャッツアイセイケース」や、去年ゴールドを獲得した「初日の電」などはまさにそういう企画でしたよね。
貞賀:その中でも、去年グランプリを受賞した「セトリレシート」の実現可能性の高さは目を見張るものがありませんでしたか?昔からあるレシートというものに歌唱履歴というエッセンスを足しただけといえばそうなんですけど、そのシンプルさが逆にアイデアとして強さを感じましたね。
來住:わかります。その手があったか!って感じで。それでいうと、14回グランプリの「オセリポ」も印象に残っていますね。誰もが知っているオセロなのに、石の置き方ごとの必殺技がこんなにたくさんあるんだという驚き。それに加えて、その技名をスマホが読み上げてくれて実況してくれるというテクノロジー面での工夫もあって、とにかく発見感がすごかったです。
津田:「オセリポ」は一次審査の時から抜群に光ってましたね。去年もやっぱり「セトリレシート」がとんでもなく光っていて。カラオケボックスって歌うだけじゃなくてその空間を誰と過ごすか、どういう雰囲気の会だったかが思い出として結構重要だったりするじゃないですか。そういった「思い出を残す」っていうカラオケの価値を可視化して、ほとんどお金をかけずに企画にしているのがすごいと思いましたね。
課題解決の一歩先を見据えたアイデアが強い
──皆さんが審査を行うにあたって、重要視しているポイントとは何でしょうか。
來住:僕は、アイデアの解像度の高さを意識しています。例えば「人が喜ぶ」ことにしても、どんな人がどんな風に喜ぶのか。イベントにしても、どんなイベントでどんな仕掛けをするのかといったところまで考え尽くされている企画は上に上げる確率が高いです。
菊池:たしかに、自由度が高いアワードである分、課題からさらにターゲットを絞るといったフォーカス力も試されているのかもしれませんね。そのほうが、他と被らない企画になると思いますし。
來住:コンペの開催初期はイベントなど販促に近い純粋なアイデア力が評価されていて、コロナ前くらいからは、デジタルとかSNSをどう活用するかといった手法の鮮やかさが評価されるフェーズになった印象です。でも逆に今一周回って、消費者の心をしっかりつかむ、本質的な企画が評価されてきているようにも感じるんですよね。
津田:一種、それも時代性なのかな。やっぱり傾向とかトレンドをつかむことも大切だとは思うのですが、ある意味僕たち審査員も「異分子」を求めているところがあって。先人たちの事例の根幹にある、心を動かす本質を学ぶことが大切なのかもしれないですね。
貞賀:僕が「販促コンペ」の審査員をやっていて1つ思うのは、広告プロモーションありきじゃない考え方で入ってきてるものが印象に残るということ。それが必ずしも上位に残るというわけではないかもしれないですが、1つ残りやすい作品の傾向としてあげられるんじゃないかな。例えば、そのサービスや商品のファンコミュニティをつくるためにはどうしたらいいんだろう……とか。
來住:そうですね。いま思い返すと「セトリレシート」の時の課題って、「社会人がカラオケボックスに行きたくなるアイデア」なんですけど、たぶん「セトリレシート」を体験した後って、そのカラオケボックスへのファン度も上がるじゃないですか。課題解決+αで、さらに価値を提供できている企画は頭ひとつ抜けている感じがしますね。
その企画の提供価値はコストを上回っているか
──「販促コンペ」応募者が「対策」としておさえておくべきことは何でしょうか。
貞賀:まず「人を動かす」アイデアが求められているのは大前提として、そこにプラスして、どれだけ労力をかけないでその人が動くかっていう視点があったほうが良いと思うんですよね。消費者がその企画を体験するにあたってカロリーがかかりすぎていないか、コストをかけずにそのアイデア1つでどれだけ人の心を動かせているかは、気にしてほしいポイントです。
菊池:たしかに。アプリをまずダウンロードして……から始まると、本当に消費者ってそんなに素直にダウンロードしてくれるのかなと疑問に思ってしまう部分はありますよね。その労力をかけさせるだけの価値を対象者に提供できているのかは、チェックすべき項目だと思います。
津田:自分たちが考えたアイデアは我が子のようなものだから思い入れも強いし、ともすれば自己都合に解釈しがちなのもすごくわかる。けど、そういった時にこそ「反証」が大事だなと思うんですよね。アイデアを客観視することは、時には自分にとって辛いことかもしれないけれど、本当に賞を狙うのなら必要な作業だと思います。
來住:あとは、課題を解決するソリューションだけじゃなくて、人の感情を動かすエモーションまで意識できると良いなと思いますね。そういった中でひと味違うエモーションをつくるためには、自分のエゴが大切になってくる。極端に言うと、自分しか思わないようなことを上手く料理して企画にしてしまえば、唯一無二のものが出来上がるわけです。これだけの作品数が集まってくるとやっぱり似通った企画が集まってくるのも事実。その中で審査を突破するためには、自分しか思わないとか、自分はこれが好きだからとか、自分のエゴを突き詰めていくことも時には必要です。エモい企画から「エゴい」企画への転換を意識してほしいですね。
菊池:「エゴい」企画、キャッチーですね(笑)。そのエゴと客観性のバランスをとるためには周りの人の意見が重要なはずです。僕も「シークレット・メッセージ」の時は、コカ・コーラのペットボトルにペンでメッセージを実際に書いて、当時の友人に黙って渡してみたんですよ。友人が飲み終わった後にペットボトルのメッセージに気づいて「おっ」と驚いたのを見て、これはいけるなと思ったのを覚えています。
貞賀:そんな裏話があったとは(笑)。僕も普段やっているプロセスでいうと、頭のねじを外して一見あり得ないと思えるようなことを片っ端から試すフェーズと、誰にもわからないような細かいところまで本当にこだわり抜くフェーズがあります。それをやってから、また違うタイミングでチームみんなの客観的な目を通すと企画に磨きがかかるのではないかと思います。
菊池:企画に固有名詞を付けるっていうのも1つのテクニックかもしれません。切り口を考えるうえで他と被らない企画が生まれやすくなりますし、一言で言える企画ってやっぱり強い。
津田:ある程度アイデアが被ることは予想しつつ、菊池さんが言ったようにネーミングの仕方をちょっと工夫してみたりとか、課題の解釈の仕方をちょっとずらしてみたりするとか。「きっとみんなこの辺の落としどころになるだろう」から一歩進んで、さらに突き詰めて考えていってほしいですね。