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コラム

西武ライオンズ広報変革記~やる獅かない2024~

企業広報とこんなに違う!球団とメディアの関係~「公平性の原則」から考える

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こんにちは。西武ライオンズ広報部長の赤坂修平です。

いよいよ2024シーズンが開幕しました。今日現在9試合を終え6勝3敗と非常に幸先の良いスタートが切れました。とはいえ143試合の長いペナントレース、まだまだこれからです。

さて、前回(第一回)のコラムでは「観客動員数最下位、広報としてこれほどおいしいことはない!」というエピソードについて、これまでの経歴とともにお話ししました。第二回のテーマは「企業広報とこんなに違うのか!球団とメディアとの関係」です。今回は「公平性の原則」がポイントです。

 

着任初日、「番記者」文化の洗礼を受ける

写真 球場内での選手の囲み取材の様子
球場内での選手の囲み取材の様子。提供:西武ライオンズ

私が西武ライオンズの広報部長に着任したのは、2023年1月5日でした。初日から企業広報との違いに驚きの連続でした。

仕事始めのこの日の朝、当社の多目的ホールで社長の奥村剛が、メディアの皆様に新年のご挨拶をしました。相手はともかく、ここまではどこの会社にもあることですが、その後、司会の広報担当が「新担当の方、ご挨拶をお願いします」と、新しくライオンズを担当する番記者さんの挨拶が始まったのです。

「えっ!この光景は何なんだ!」と目を丸くさせられました。一人一人前に出て、昨年まで別の球団の番記者だったとか、横浜に住んでいるので所沢までの通勤が大変だとか、最近結婚したなどといった具合に。さらに、広報担当が「新担当の方こちらにお願いします」と呼びかけ、番記者さんの顔写真をパシャパシャ撮っているのです。

「いったい何をやってるの?」と別の広報担当に聞くと、選手や球団関係者に記者の顔と名前を覚えてもらうため、この後一覧表を作るというのです。選手に良からぬ人が近寄ってきて危害を加える可能性もあるので、確かに理解はできましたが、球団優位な雰囲気をこの場で感じました。

 

「メディアの要望には極力応える」ライオンズ広報の基本姿勢

写真 宮崎県の春季キャンプの合間に、新人3選手(武内夏暉・宮澤太成・糸川亮太)が釣りを体験するなど日南市南郷の観光PRを実施し、その様子を取材している記者たち
宮崎県の春季キャンプの合間に、新人3選手(武内夏暉・宮澤太成・糸川亮太)が釣りを体験するなど日南市南郷の観光PRを実施した(2024年2月)。その様子を取材している記者たち。提供:西武ライオンズ

前回のコラムでもお話しましたが、私はこれまで、ホテルや鉄道、不動産の広報を担当してきました。プレスリリースを書き、何十枚も印刷して、霞が関の国土交通省の記者クラブまで持って行き、各社ブースにいる記者さんに各事業のオーソドックスな企画でも事前にいくつも切り口を考え訴えかけてきました。それはなんとかして記事掲載につなげたいからです。

しかし現在の「球団広報」の場合、かなり乱暴な言い方をしてしまえば、その必要性を感じなくてもやっていける仕事です。

番記者さんは一言で表現すると「球団の応援隊」で、プロ野球が盛り上がるようにチームが勝っても負けても基本的には前向きな記事を書いてくれます。スポーツ新聞であれば、野球だけで二、三面はありますし、毎日必ず原稿を出していただける人たちと一緒に仕事ができているのです。そのぐらいプロ野球は強力なコンテンツだという裏返しではありますが。。。

取材依頼をかけるとき、「さすがにこれだと集まらないかな」と思うネタもあります。そんな時、企業広報は必死でアイデアを考えます。ですが、球団広報の場合「球場に居るので来てくれるでしょ」という感覚の人もいると思います。

メディア側も紙面には載せられないけど、取材しにくくなるから顔は出す。こうなると広報も「取材させている」と勘違いしてしまう可能性すらあると感じました。

ファンあってのプロ野球ですから、自分たちの情報を伝えるために「メディアの要望には極力応えていこう」というのがライオンズ広報のスタンスです。取材が自由にできたコロナ前の状態に12球団で最も早く戻し、選手のぶら下がり取材も復活させました。

これは前広報部長が社内のキーパーソンにマスコミ取材の必要性を説き、何年もかけて風土醸成してくれた賜物です。よって他球団よりは取材がしやすい環境でもあるため、マスコミ各社は経験を積ませたい若い記者をライオンズの番記者として送ります。

当然、経験が少ないので、ベテラン記者のように選手の話をうまく引き出せないことも間々あります。囲み取材の場合は、マスコミ各社が共通に聞きたい問いを代表質問として聞きますが、それが若い記者で上手くいかないと「彼、無理だから変えてよ」と言ってしまうことが起こってもおかしくない業界です。

ところが、もしもそれで担当を外されてしまったら、その記者は腹に一物抱えることとなり、無用な敵を作ることになります。インタビュアーに不安がある場合、私は選手に「まだ若くて話をうまく引き出せないから、質問に対してプラスアルファで回答してあげて」と事前に伝えるようにしています。

自分たちはメディアの人たちを介して、ファンに様々なことを伝えたいのです。それができないのであれば「自分たちから話していけばいいじゃないか」という発想です。

広報と記者は、双方の若手を鍛える社外の上司や先輩という間柄だとも思っています。自分もベテラン記者さんに指導いただき育てられましたし、今後も一緒に成長していきたい同志だと思っています。

 

「人事」を抜きたい記者にどう対応するか

写真 2023年12月、ライオンズ残留を発表した平井克典投手
2023年12月、ライオンズ残留を発表した平井克典投手。提供:西武ライオンズ

こんなこともありました。昨年オフにFA宣言をした平井克典投手が2023年12月、ライオンズに残留することを決めました。「公平性の原則」から、なるべくリリースを出して一斉に発表したい。何より「ライオンズに骨を埋めるつもりだからファンの皆さん応援よろしくお願いします」ということを、平井本人の口からメディアを介して多くのファンに伝えたいと思いました。

本人と球団内とで事前調整が済んだことで、発表前日に会見の案内をかけました。当然その時点から情報の縛りが発生しますので、一部の記者から「あれをやられてしまうと、記事が出せない」と渋い顔をされました。

番記者さんたちは人事を抜きたい。そのために日夜頑張られているのは理解していますし、リスペクトもしていますが、我々はファンに広く伝えたい。ギャップがあることを認識したうえで、適切にやっていかねばと感じた出来事でした。

 

パスを持たないフリー記者にも取材の機会を

写真 本拠地、ベルーナドーム(所沢市)内の記者席。屋外、屋内にそれぞれ用意されている
写真 本拠地、ベルーナドーム(所沢市)内の記者席。屋外、屋内にそれぞれ用意されている
本拠地、ベルーナドーム(所沢市)内の記者席。屋外、屋内にそれぞれ用意されている。提供:西武ライオンズ

野球を取材する記者は、各社の番記者だけでなく、フリーの記者もいます。

番記者はNPB(日本野球機構)パスを持っていて、それを見せれば取材申請の必要はありませんが、パスの無いフリーの記者は毎回取材の申請を出さなければなりません。球場内にある記者席には各社の社名が貼ってあるため、席も用意されていない環境で取材をされています。

我々が伝えたいのは、メディアの向こう側にいるファンです。今、ファンが情報を得る媒体も多様化していますし、メディアの看板だけで取材の許可を判断するのは、企業広報をやっていた感覚からすると「公平性の原則」に沿っていないと思いました。私は、番記者さんもフリーの記者さんも公平に対応しなくてはいけないと考えています。

ある夏の試合当日、とあるフリーの記者が取材に来ました。その日は湿度が高いうえ、顔色が悪く体調が優れない様子でした。エアコンが効いている屋内の記者席を案内しましたが、席には各社の社名が貼ってあるため「そこには入れない」と言うのです。

そのため、私がアテンドをして空いている席に座ってもらいました。私はこれに違和感を感じ、それからアルバイトさんに記者席の稼働状況を毎日確認してもらい、記者席を束ねる幹事の方とも相談し、2024シーズンから室内74席中9席をフリーの記者席にしてもらいました。

写真 2024シーズンからフリー記者のための席を用意
2024シーズンからフリー記者のための席を用意した。提供:西武ライオンズ

ライオンズの春季キャンプ地は宮崎県日南市で行いますが、番記者さんがいるような大きい会社は出張費も宿泊費も出ます。しかしフリーの記者はインバウンドも活況でホテル代なども高騰している今、高額な費用を自ら支払って取材に来てくれます。

その他も大手メディアの記者が当たり前のようにやっていることを、フリーの記者はできないことも。これは一般社会における正規雇用と非正規雇用でも同様ですね。

よってフリーの記者には、気を配りすぎるくらいに配慮をして、ちょうどいいのではないかと思っています。これは、今後お話しする「危機管理」にも生きてくると考えています。

このように従来の慣習にはとらわれず変えていくべきところを変えていこう、という提言ができるのも、社内の論理に留まらずステークホルダーとの対話を繰り返してきた企業広報の仕事の経験があってこそだと考えています。

次回はさらに踏み込んで、これまで「攻め」とは無縁だった「球団広報の変革」についてお話しします。

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