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第53回JAAA懸賞論文の金賞が発表に 『生活者は広告人となり、社会そのものがメディアとなる〜シンギュラリティ時代に広告が欠かせない産業になるために〜』

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日本広告業協会(JAAA)では毎年、会員社社員を対象に「論文」と「私の言いたいこと」の懸賞募集を実施している。2024年3月25日、第53回懸賞論文の受賞作品が発表になった。最高賞である、金賞を受賞したのは博報堂 ミライの事業室 Hakuhodo JV Studio 部長の宮井 弘之氏の論文『生活者は広告人となり、社会そのものがメディアとなる〜シンギュラリティ時代に広告が欠かせない産業になるために〜』だ。本論文を執筆した背景について宮井氏は、次のようにコメントしている。

シンギュラリティ概念を世に広めたカールツワイル氏はその時点を2045年としていました。当時は2045年ではまだ早いと言われていました。ところが、Chat GPTがわずか2ヶ月で利用者1億人を獲得するやいなや、画像、音声、動画などの生成系AIも次々に実用化。シンギュラリティ大学学長、ピーター・ディアマンディスが指摘するようにテクノロジー同士の融合(コンバージェンス)が発生。進化するテクノロジー同士がさらなる「加速」をもたらし、破壊的な変化を生んでいます。そう、シンギュラリティは「だいぶ近い」のです。 広告人は、このような加速的な社会変化をどのように捉えるべきでしょうか。私は、「人間の創造性にさらなる焦点があたる時代」と捉えます。そんな時代に広告業界が欠かせない産業になるためには、我々のどのような能力を活かし、どのように広告を再定義すればいいのか。そんな問題意識をもって本論文を執筆しました。

ここでは金賞を受賞した論文のサマリーを紹介する。

シンギュラリティがいよいよ現実化する現代を筆者は、「人間の創造性にさらなる焦点があたる時代」と捉え、本論文の目的を「社会全体の動向と課題意識を踏まえ、過去のJAAAコミュニティでの議論を練り上げ、広告の新しい全体像を定義し、その具現化に向けた道筋を示すこと」と設定した。

まず、AMAによる広告概念の定義を参考にしながら、過去のJAAA論文のレビューを行った。結果(1)広告の受け手の観点からは、広告の存在意義の低下、AIなどの情報技術の活用、ルールメイキングの必要性(2)メッセージとメディアの観点からは、企業の意思、倫理観、人々の連帯、社会の幸福への貢献の必要性(3)広告主と広告会社の観点からはクリエイティビティ、インキュベーション、チームワークの3つの力が価値創出の源泉であると議論を整理した。

次に、上記の要素をアナロジー思考により広告の新しい姿として構造化することを試みた。ドイツの彫刻家であるヨーゼフ・ボイス(Josef Boyes)の作品を通じて論じられた社会彫刻概念(集団的な創造性と参加を通じて社会を形成し変革すること)を見立てとして援用。「広告は、社会彫刻のようになる」という説明仮説から、[1]生活者も広告人であり、誰もがクリエイティビティを持つ。[2]我々の思考や対話といったプロセスも広告そのものである。[3]社会は全体として、ひとつのメディアである。[4]我々のあらゆる活動が、広告メッセージとなりうる。[5]広告は、パーパス起点でなくてはならない。と、広告の新しい姿を5つのマニフェストとして導出した。

最後に、広告の新しい姿を具現化するための道筋をWEB3における世界観「中央集権から、自律分散へ」をヒントに提言。我々広告人が、自律分散的に活動する個人や組織を各々の社会課題の解決に向かって先導していく「彫刻家」としての役割を持ち、社会課題と成長機会をクリエイティビティ(言語化や見える化力)でパーパスへと変換。チームワーク力で生活者や企業を巻き込んで人々を連帯化し、インキュベーション力で活動内外でのコミュニケーション活動をファシリテートし自律分散化する。この一連の要素全体にAIなど各種技術が活用され、運動体として価値化された状態を筆者は「分散資本」と呼び、次世代広告産業の経営資源となると指摘。広告会社は分散資本集約を担保する信頼の基点(トラスト・ポイント)をつくるコミュニケーション活動を担い、分散資本内の様々な価値の交換を仲介し、レベニューシェアを得るとした。まとめとして、「広告とは、未来の社会課題解決や成長機会獲得を目指すパーパスを起点に構想された継続的な社会・経済活動やその実行組織のこと。広告は、関係する組織や個人により、自律分散的な共創活動として推進される。」と広告の新しい定義を提案した。

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写真 イメージ 新しい広告の姿と広告会社の分散資本経営
図:新しい広告の姿と広告会社の分散資本経営

博報堂 ミライの事業室 Hakuhodo JV Studio 部長
宮井 弘之氏

慶應義塾大学商学部卒。02年博報堂入社。新商品・新サービス・新事業の開発支援に従事。幅広い業界のリーディングカンパニーと300超のプロジェクトを経験。15年、博報堂子会社として、近未来の消費者洞察データを基軸にイノベーション支援を展開するSEEDATAを創業。21年度より博報堂の新規事業組織ミライの事業室へ参画。著書に『バカにされたらありがとう』(幻冬舎)他多数。博士(経営学)(筑波大学)。