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コラム

BtoB企業のコピーって、どう書いたらいいですか?

脱部品の村田製作所が目指した「エレクトロニクスで世界を変える。」が生まれるまで

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コピーのよりどころを探す

僕が村田製作所の仕事に携わり始めたのは、サン・アドに在籍していた2002年。最初につくったのが「技術大(好き)国になろう」という広告です。よく見ると、ボディコピーの下、村田製作所のブランドロゴの上に「エレクトロニクスで世界を変える。村田製作所」というコピーがあります。今回のコラムはこのコピーの話から。

実データ グラフィック 村田製作所の新聞広告
実データ グラフィック 村田製作所の新聞広告
村田製作所の新聞広告(いずれも10段、2002年度)。「Originality, or die.」は安藤隆氏によるもの。

その前年まで村田製作所は「ブーヒン氏」「恋する部品製作所」「だけど恋する部品製作所」「部品 Loves You」と、主力製品である電子部品をテーマにした広告を数年続けて展開していました。一連の広告の中には「村田製作所は、きょうも、小さいことをやっています」というコピーもあったように、精密さへのこだわりをコミカルに表現することで、村田製作所の個性や親しみやすさを際立たせていました。ところが、僕がチームにジョインした時を境に、広告の方針が「脱部品」へと大きく変わることになったのです。部品は村田製作所のアイデンティティであり、コピーのよりどころでもあります。それが封じられてしまっては、いったいどんなテーマでコピーを書けばいいのか。それから数日間、ああでもないこうでもないと悩み続けていたある時、不意に村田製作所のブランドロゴが目に止まりました。そこにあったのが「Innovator in Electronics」という言葉でした。

ロゴ 村田製作所のブランドロゴ
現在の村田製作所のロゴ。

未来を予見する言葉

もちろんそれまでに、その言葉の存在に気づいていなかったわけではありません。ただ、企業ロゴの近くに置かれる言葉というのは、床の間の掛け軸のような、装飾的なものにしか見えていなかったのです。しかし、この時は違います。コピーのよりどころを必死で探していた僕にとって、それは一筋の光明に見えました。折しも時は2000年代の初頭。デジタル革命のビッグウェーブがすぐそこまで押し寄せていました。革新的なデジタルデバイスであるiPodが登場し、理系の大学院生が創業したグーグルが急速に台頭する中、「Electronics」は時代の先頭を走る、かっこいい言葉に思えました。その言葉に触発され、というか、その言葉に込められた想いをそのまま翻訳して、僕は「エレクトロニクスで世界を変える。」というコピーを書きました。

この広告の主役(キャッチフレーズ)は「技術大(好き)国になろう」で、「エレクトロニクスで世界を変える」は脇役(抑えのコピー)に過ぎません。しかしこの数年後、村田製作所の部品が中枢に使われたスマートフォンの登場が、ほんとうに世界を変えてしまったことを考えると、このコピーは村田製作所の未来を明示する、なかなかに予見的な言葉だったと思えます。いや、「それを書いた俺はすごいだろう」といいたいのではありません。そのコピーのよりどころとなった「Innovator in Electronics」がすごいといいたいのです。

企業を背負う言葉の重み

さて、ここからが今回のコラムの本題です。村田製作所の企業サイトを見ると、「Innovator in Electronics」は「国内外のムラタグループの従業員全員が共有するスローガンで、新市場、新商品、事業領域を拓いていくための理念」であり、「『エレクトロニクス産業のイノベーションを先導していく存在でありたい』という想いを込めています」という説明がされています。もし村田製作所が自身を一介の部品メーカーと考えていたら、このような視点を持つことはなく、世界的なエレクトロニクス企業になることもなかった、と考えると、あらためて企業が持つ理念の大切さを感じます。それはただの飾りなどではなく、その企業の意志や全社員の想いを背負う、きわめて重要な言葉なのです。ありがたいことに、今では僕も企業理念やブランドスローガンを書く機会を度々いただきます。そのような言葉と向き合うたびに、広告のキャッチフレーズを書くのとは明らかに異なるダイナミズムをひしひしと感じています。

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