2023年第1四半期において広告収益は停滞した。これは経済面での不確実性と経済の減速が影響をしていると考えられる。ただし、ECサイトや小売業者のデジタル広告予算増加と、一部の大規模な産業分野(小売、自動車、旅行)の増加により前年比グローバル広告市場が4.6%を達成し、今年も成長し続けると予測している。そこで、グローバルメディアエージェンシーIPG Mediabrands のロンドン支社でメディア営業を担当する忍久保恵太氏が、IPG MAGNAの「グローバル広告予測」(監修 ビンセント レタング・ルークスティルマン)をもとに解説する。
全体傾向
従来のブランディング広告からパフォーマンス広告に予算の再配分が進む
MAGNAが年に2回発表している「グローバル広告予測」の夏の更新によると、広告収益は今年8,420億ドルに達する見込みであり、2022年に比べて4.6%成長する見込み(8,050億ドル)。
要因として、ビジネスの回復に伴い強力な成長が予想されていた(自動車、旅行)分野の伸びと予想されていなかったヨーロッパの小売業者のマーケティング予算の増加。CPG(すべての消費財)/FMCG(日用消費財)の商品カテゴリは、従来のブランディング広告からパフォーマンス広告に予算を再配分することで、新たな資金をもたらしている。
この不確実な経済環境下では、従来のメディア会社やブランディングに最適な媒体(テレビ、オーディオ、印刷媒体、屋外広告、映画)への出稿が減っている。ブランドがマーケティング予算を削減し、パフォーマンス重視のデジタル広告フォーマットを優先しているため、従来のカテゴリ全体の広告収益は、合計で2,640億ドルになり、3%縮小する見込み。
媒体別成長傾向
テレビは苦戦、オンライン広告は回復、ソーシャルメディアは再加速、小売業者広告は急成長
グローバルにおけるテレビ広告収益は、今年5%減少し、1,590億ドルになる。印刷媒体広告収益は4%減少し、440億ドルになる。オーディオメディアの広告収益は安定している(280億ドル、-0.5%)。
従来の媒体で唯一成長しているカテゴリは屋外広告で、市場規模がコロナ禍以前の水準にもどり尚且つ+5%増の310億ドルに達する予定。映画広告は23%増の20億ドルになる予定。
一方、デジタルメディアではピュアプレイ広告がeコマース、小売りメディア、メディア消費の変化、データの安定化によって8.5%成長し、5,770億ドルに達する予定。サーチ検索やeコマースが広告フォーマットの中で最も大きな部分を占め、3,000億ドルに迫っている(9.1%増の2,960億ドルの予想)。ソーシャルメディアフォーマットは9.4%増の1,720億ドルに再加速し、ショートフォームのピュアプレイビデオ広告は8.6%増の710億ドルに成長する予定。
小売り業者の広告収益は、今年1,210億ドル(+12%)を生み出す見込みであり、そのほとんどは商品検索やeコマースのスポンサーシップの形で得られ見込み。
グローバル広告費傾向(エリア別/媒体別)
注1)
https://magnaglobal.com/global-ad-market-june-2023-update/
市場別成長傾向
インドが順調に成長、中国は回復、ヨーロッパは苦戦、米国は持ちこたえ
今年最も成長率が高いのは、再びインドで(+12.3%、1,260億ドル)ある。インドは世界第11位の市場。中国の広告市場は以前よりも速く回復する見込みだが(+8.4%)、一方では、西ヨーロッパのほとんどの市場は今年停滞する見込み。ドイツ、フランス、イタリアはすべて全メディアで+3%以下の成長率である。米国では、広告収益は今年わずか+2.5%増の3,330億ドル(クロスプラットフォームビデオ-8%、オーディオ-2%、印刷媒体-6%、屋外+3%、検索/コマース+10%、ソーシャル+8%、ダイレクトメール-7%)になる見込み。日本(+2.6%)では微増の予想である。
今年は、北米とヨーロッパの市場は期待を下回る結果を収める見込み(広告市場の成長率はそれぞれ+2.5%、+4.2%)で、一方、APAC地域(+7.1%)やラテンアメリカ地域(+8.7%)は大幅に成長する見込みになっている。
2024年には、経済の安定化と周期イベント(米国大統領選挙、パリオリンピック、ユーロサッカー選手権)によって広告収益が再加速する事が予定されており、ローバル広告収益は6.1%増の8,920億ドルを想定している。
グローバル広告費傾向(国別)
注 2)
https://magnaglobal.com/global-ad-market-june-2023-update/
産業分野成長傾向
自動車業界の復活、小売業界の競争、CPG(消費財)のジレンマ
食品や飲料品などが高いインフレを受け、CPGブランドや食品小売業者にとって新たな課題となっている。そして、失業率は悪化していないため、高額商品の消費が維持されていることによりある程度の低迷は避けられている。旅行業と自動車業界は他の産業とは逆に回復が他の業界よりも遅れている為、成長は今伸びだしている。休暇や新車は、家族が既に休暇や家族の車の更新を何年も延期してきたため、消費率はまた戻っている。その結果、これらの競争の激しい2つの産業では、マーケティング支出が+10%以上増加傾向が見られる。
主要産業分野における広告支出の動向(2023年)
広告費(低):金融、テクノロジー、通信、不動産、食品、個人用品、レストラン
広告費(適度):製薬、飲料、ギャンブル、保険
広告費(高):旅行、自動車、小売、エンターテイメント
注3)
https://magnaglobal.com/global-ad-market-june-2023-update/
コロナで世界中が健康面および経済面で影響を受け、やっと通常に戻りつつあるなか、インフレがさらに世の中を不確実な時期をもたらしているが、消費は徐々に戻り成長傾向が続いている。但し、マーケティングに関して、ブランドよりパフォーマンスメディアに移行する傾向があるなか、短期及び長期マーケティングのバランスがより一層大切になってゆく。
注1~3)
https://magnaglobal.com/global-ad-market-june-2023-update/
IPGメディアブランズ
IPGメディアブランズは、インターパブリックグループ(IPG)において、データ分析に基づきメディアおよびデジタルを通じたマーケティングソリューションを提供する企業グループです。メディアブランズは、クライアントのエージェンシーとして世界中で約400億ドルのマーケティング投資を管理しています。また、数々のアワード受賞歴を誇るフルサービスエージェンシーネットワークのUMとInitiative、および革新的ソリューションのスペシャリスト組織であるReprise、MAGNA、Orion、Rapport、Mediabrands Content Studio、IPG Media Lab等を通じて戦略的なサービスとソリューションを提供しています。 メディアブランズのクライアントには、幅広い業種にわたり、世界で最も知名度の高い、アイコニックなブランドが多数含まれています。また、130カ国以上でダイバーシティに富む13,000人以上のマーケティングスペシャリストが活躍しています。日本では、メディアプランニングとバイイングの両方を提供できる唯一のグローバルエージェンシーです。1960年のマッキャンエリクソン博報堂設立以来、2007年のIPGメディアブランズジャパン設立を経て、グローバルと国内両方のクライアントとお取引いただいています。
執筆者 忍久保恵太 Keita Shinokubo
三洋電機に勤めていた父の仕事の関係で、2歳から海外で過ごす。2歳から6歳までアメリカのロサンゼルス、7歳から15歳までイギリス、15歳から18歳までドイツのミュンヘンで過ごす。大学はイギリスへ戻り心理学を専攻。卒業後日本に戻り、自分のルーツを求めて日本で就職。心理学と美術が好きだったので、広告代理店志望で当時マッキャンエリクソンのメディア部大阪支社へ就職。テレビ朝日とテレビ東京の局担を3年過ごし、2003年から東京でメディアプランニング担当。2007年にイギリス人の妻と英国へ。2007年から2008年は念願のバックパック旅行で日本を1か月半旅し、インド、東南アジアを7か月旅をする。イギリスに戻り、マインドシェアのグローバルビジネス部に就職。以降グローバルビジネスを担当。現在はユニバーサル・マッキャンでエクソンモービルのヨーロッパビジネスの営業として束ねる。得意先のビジネス・コミュニケーション目標設定から、全体的なマーケティングコミュニケーション、メディアを通じてどの様にターゲット層に合ったプランを設計し、効果を図るソリューションを提供。日本で得たローカルの知識をベースに、グローバル営業の基礎として活かしてます。女の子二人(11歳と8歳)を持ち、趣味はブラジリアン柔術です。