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大学広報ゼミナール

意味のある戦略とない戦略 どう判断するか

鈴木洋文(高崎商科大学)

広報活動の費用対効果について、メンバーと話し合いの場を持つことがあります。何が必要で不要なのか、そこで話題となったのが「パンフレット」です。有用性について高校の先生方や受験生にヒアリングしましたが、意見はまちまち。データによる効果検証も困難と判断し、廃止を勇断しました。

「A/Bテスト」と「やめる勇気」

『部長、その勘はズレてます!「A/Bテスト」最強のウェブマーケティングツールで会社の意思決定が変わる』(ダン・シロカー、ピート・クーメン著、栗木さつき訳 新潮社)では、アメリカ大統領選でバラク・オバマ氏の参謀だったダン・シロカ―氏が、広告デザインの意思決定プロセスについて解説しています。

A/Bテストでは、デザインを漠然とテストするのではなく、何を最適化しようとしているのか、どんな変化を起こしたいのかを考え、仮説を立てるべきだと述べています。また、大改革をしなくとも、新たな特徴を少しずつテストすることでリスクを最小限に抑えることができると言います。

パンフレット廃止には、このA/Bテストの意思決定プロセスを応用しました。パンフレットという支柱的媒体を廃止することは大改革のように感じますが、効果の高いデジタル施策は継続することになるため、リスクは大きくないと判断しました。「デジタル×アナログ」というAパターンと、パンフレット廃止で浮いた予算の一部を流用した「デジタル×デジタル」というBパターンの効果をそれぞれ1年間かけて検証することにより、広報活動の最適化を目指したのです(図1)。

図1 デジタルとアナログのA/Bテストの例
A/Bテストの意思決定プロセスを、実施する広報施策の取捨選択に応用。

本学のような小さな大学では広報予算は極めて少ない。費用対効果を考え、取捨選択をせざるを得ず、効果検証が難しければ、やめてみるしかない。やめる勇気も必要なのです。「やりたい」という提言が称賛されるのに対し、「やめたい」という提言は非難されやすいものですが、やめてみた結果がプラスに働くことも多々あります。

話し合いでは、媒体への出稿も話題になりました。多くの大学が名を連ねるキュレーションサイトや受験雑誌に大学名を掲載し、そこに資料請求などで反応した人の名簿を獲得する必要があるか。地方私大までたどり着く新規リードはどれほどいるのか。チャネルとして費用がかさむ大型媒体は効果的なのか。一考の余地がありました。

幻影(バイアス)の存在

『坂の上の雲』(司馬遼太郎著 文春文庫)では、戦術家である児玉源太郎の日露戦争における旅順攻囲戦でのエピソードを紹介しています。「負け戦」状態に業を煮やした児玉は、重砲の設置を求めますが、砲兵の専門家である参謀は...

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