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記者の行動原理を読む広報術

ジャニーズ問題に見る報道側の「ニュース判断」と危機管理のこれから

松林 薫(ジャーナリスト)

ネット世論が報道に与える影響力が大きくなっている。その反響しだいでニュース価値が高まり、社会問題として大きく報道されることもある。危機管理広報の担当者は、こうしたマスコミの行動原理を理解しておきたい。

英国の公共放送BBCは3月、故ジャニー喜多川氏によるタレントへの性加害問題を取り上げたドキュメンタリー「Predator(プレデター=捕食者)」を放送した。日本で最も影響力のあるタレント事務所を巡るスキャンダルだったため、6月時点でも世間の関心は衰えていない。今回は企業不祥事に対する危機対応という観点からこの問題を考えたい。

拡大するネット世論の影響

ジャニーズ事務所の対応は後手に回っている。現社長がBBCの放送を受けてコメントを発表したが、記者会見は開かなかったため憶測がくすぶり続ける結果になった。この間、元所属タレントが日本外国特派員協会で会見するなど、騒動は拡大する一方だ。

もちろん、様々なスキャンダルの中でも性的虐待は極めて扱いが難しいことは事実だ。今回も現役を含むタレントが被害に遭っている可能性があり、事実が公になれば二次被害(いわゆるセカンドレイプ)が起きかねない。事務所が慎重になるのは当然だろう。

一方で、ことがここまで大きくなってしまうと、身内だけで処理するのは不可能だ。本来は社長が記者会見を開き、事実の究明や再発防止を約束し、第三者委員会の設置を発表しなければ収まらない案件といえる(その後「外部専門家による再発防止特別チーム」設置は発表)。

ところが不思議なことに、ジャニーズ事務所は取材も受けていながらほとんど準備をせずに放送日を迎えたように見える。ことの重大さからすれば、社長が一方的な釈明動画を公表しただけで事態が収束に向かうわけがない。この点については筆者の推測になるが、メディアの反応を読み誤ったのではないだろうか。

ジャニーズ事務所は、テレビを中心としたマスメディアに対し強い立場にあった。人気タレントの出演を拒否されたくないメディアは、事務所や所属タレント関連の不祥事報道を避けがちだったとされる。今回も従来と同様の対応で乗り切れると判断したのかもしれない。

しかし、マスコミの行動原理はここ1~2年で大きく変わった。「ネット世論」の影響力が増したことで、マスコミがそれを無視できなくなったのだ。仮に初期段階でマスコミを懐柔できても、ネット世論が高まれば報道は止められなくなる。「人気タレントの引きあげ」という最強のカードを持つジャニーズ事務所でさえ報道を抑えられなかったことは、テレビとネットの力関係の逆転を象徴している。

マスコミにとって避けたいこと

とはいえ、「それでも新聞やテレビの報道は控えめではないか」と感じる...

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