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社内コミュニケーション 従業員が参画したくなる伝え方

組織で重視する価値観を多角的に広め 従業員1人ひとりへの定着目指す

iCARE

組織で重視する価値観が、従業員にとっても日々の意思決定の拠りどころになっている─。そんな状態を生み出すには、目指す姿の明文化と浸透が鍵となる。ヘルスケア事業のiCAREでは従業員数の拡大とともに、その手法を変化させている。

DATA
設立年 2011年6月
従業員数 147名(2023年4月現在)
広報体制 人事総務部 広報チーム 2名

「働くひとの健康を世界中に創る」をパーパスに掲げ、法人向けヘルスケアサービスを運営するiCARE。パーパスに基づき、自社でも「従業員の身体的・精神的・社会的健康づくり」を目指している。その一環として、2015年からクレド(誰と働きたいか)とバリュー(仕事をする上で意識すべきアクション)を策定。クレドとバリューの浸透を軸にさまざまな社内コミュニケーションを実施し、「働きがいのある組織づくり」を推進している。

ともに働きたい人を明文化

クレドとバリューの浸透に注力している背景には、創業の起点にもなった山田洋太CEOの問題意識がある。臨床医を経て現在も産業医として従事する山田CEOは、「働くことで健康が損なわれている」現実に直面。その背景を紐解く中で、従業員の健康には、「身体的・精神的・社会的に満たされていると『働くひとが納得』している状態」が必要だと定義した。この従業員の「納得」感に重要な要素が、目指す組織カルチャー(クレド・バリュー)を深く腹落ちさせることだと考えた。

そこで事業を加速させる段階の2015年に、創業期のメンバー5人でクレドを策定。採用を本格化するタイミングでもあったため、クレドの内容は「何をしたいかよりも、誰と働きたいか」を明文化するものに。「楽しまなければプロじゃない」をベースに3つの指標を定めた。

「クレドには『業務を楽しむことで、個人に加え、組織そのものの成長につなげていきたい』という思いが込められています。その後も、経営陣自らがクレドを指針に意思決定を重ねてきたことで、社内でもその重みが浸透していきました」(人事総務部 広報・PRチーム 呉美里氏)。一方、バリューは、「満足したらプロじゃない」をキーワードに、「仕事をする上で意識すべき3つの視点」を定めた。

iCAREが定めるクレドとバリュー

Credo
誰と共に働きたいか 楽しまなければプロじゃない

自分にフタをしていないか?
自分が決めた目標や限界から、もう一歩前に進んでみる。その一歩で得られる挑戦と失敗を、プロとして楽しんでいこう。

仲間に愛はあるか?
互いの理想を尊重し、互いに実現するために本音でぶつかり合う。そんな仲間とのRespect & Strictな関係を、プロとして楽しんでいこう。

家族に誇れるか?
家族や周囲にも自信を持って語ることができる、正々堂々とした働き方・生き方を選ぶ。その時にこみ上げてくる清々しい気持ちを、プロとして楽しんでいこう。

Value
仕事をする上で意識すべきアクション 満足したらプロじゃない

スピードは上がらないか?
迅速な仕事は、価値を生み出す。相手を驚嘆させるほどのスピードのある仕事を、プロとして追求していこう。

クオリティは上がらないか?
質の高い仕事は、感動を生み出す。相手を魅了するほどのクオリティのある仕事を、プロとして追求していこう。

視座は上がらないか?
1つ上2つ上の立場を想定した仕事は、期待を生み出す。相手の期待値を超えるほどの視座の高い仕事を、プロとして追求していこう。

出所:iCARE

クレド・バリューの当事者意識

クレド・バリューを浸透させる施策のひとつが、毎週行われる「全社定例会」での「社員発表」だ。会の3分の1が「クレド・バリュー」に関わる内容だが、中でも象徴的なのが「クレド・バリュー自慢」と名づけられたコンテンツ。選出された発表者が、「クレド・バリュー」を体現しているほかの従業員を紹介するもので、発表者は交代制だ。

「紹介される内容は、顧客との接し方や会議の進め方などさまざま。クレド・バリューの体現方法に正解はないため、それをいかに体現すべきかといった根底の部分が理解できる場となっています」(人事総務部 広報・PRチーム マネージャー 兼村綾子氏)。

さらにこうした機会により、会社への貢献度をほかの従業員が俯瞰して評価できる点も、利点といえる。「例えば、クレドにある『愛』というキーワードで紹介されるのは、従業員間で時に厳しい指摘をすることが求められる場面で、きちんと指摘ができている人。クレドと照らし合わせると『愛があるからこそ厳しい指摘をしてくれるのだ』と、指摘...

このように、単なる叱責にも捉えられかねない「指摘」なども「組織の成長につなげるため」だと、全従業員に理解され、社内コミュニケーションに好影響をもたらすケースもある。

多様な解釈へ発展

また定例会での発表中には、チャット上でも議論が活発に行われている。「こういった行動もクレドの体現につながるのでは」など解釈の発展につながる投稿も多々見られる。その結果、従業員1人ひとりが「自分は、どのようにクレド・バリューを体現できるか」と当事者意識をもって考えられる好機になっている。

このほか、同社は半期に一度開催している「全社キックオフ」で、成果を出した従業員を経営陣が選ぶ表彰式を実施。総合的な評価で選出するMVPだけでなく、クレドやバリューに関連した賞も多数設けている。例えば「フタ賞」は、その期間中に「最も自分にフタをせず、挑戦し続けた人」を選出するもの。ほかにも「愛賞」など、クレドやバリューのキーワードに沿った賞がある。

また、経営陣ではなく従業員の投票で決まる「クレド賞」も設けており、クレド・バリューへの体現度が直接的に評価される。「表彰は、従業員がクレドやバリューを実務で体現しているかを本質的に評価するためのものです。だからこそ経営陣の評価基準が高く、受賞者が不在の回も幾度もあります。ただそうした中でも、経営陣が『なぜ該当者がいなかったのか』といったフィードバックを行うことで、そこから従業員との対話が生まれ、結果的に『クレド・バリュー』に対する深い理解につながっています」(兼村氏)。

半期に一度の全社キックオフで行われる、表彰の様子。クレドやバリューに関連した賞が多数設けられている。

トップの「生の声」を直で伝える

さらに、トップのカルチャーへの思いを肌で感じられる「CxO Open Hour(シーエックスオー・オープンアワー)」も開催している。従業員がCEO、COO、CPO、CFOに自由に質問できる機会で、2週間に1回行われる。コロナ禍以降は主にオンラインで開催されており、質問は事前に募集。聞きにくい質問なども想定し匿名でも受け付ける。

質問内容は、「何でもあり」と伝えており、事業に関するものから、「今までで一番忘れられないクリスマスを教えて」といったカジュアルなものまで幅広い。「さまざまな質問が寄せられますが、山田はじめCxOはそれぞれについて丁寧に回答しています。回答の中に、随所にクレド・バリューの要素が垣間見えるため、その本質的な捉え方について肌で感じられる時間です」(呉氏)。

また質問内容はクレドに則り「自分にフタをしない」という姿勢の挑戦的なものも多く、従業員の質問からもその捉え方を学べるという効果もある。

こうした場を2018年頃から、継続的に開催できている背景には、CEOの「自身の『生の声』を届けることでビジョンや世界観、意思決定の背景を共有し、組織の納得感や熱量を高めていきたい」という強い思いも影響している。「経営層が何を考えているか」をクリアにすることで、個々の従業員が日ごろ感じている「もやもや」などが解消されるのだ。ほかにも、月に数回、PDF形式で従業員にCEOメッセージを伝えるなど、「トップの生の声を届ける」施策で、従業員の「納得感」の醸成、心理的安全性の確保を図っているという。

「『トップの生の声』を聞くことは、各従業員の業務にも好影響をもたらしています。例えば、我々のような広報チームは企業やトップを代弁することが求められますが、取材などでも『トップの意見や会社の方針』について、自分の言葉で納得感をもって伝えることができています」(兼村氏)。

隔週で行われる「CxO Open Hour」で、従業員の質問に答える山田CEO。

規模の拡大による転換期

これまで見てきた通り、同社の組織カルチャーの浸透は、試行錯誤を経ながらも比較的順調に進んできた。ただ組織規模が70~100名に拡大していくフェーズに入ると、カルチャー浸透が希薄化するなど課題が見えたという。「広報チーム等が主導して施策を企画し、実行することで皆が同じ方向を向けるのは、100名規模までだと感じました」と呉氏。

多様な価値観に応じて従業員が選択できる、多角的な機会を会社側が提供する必要があるのではと考えたという。「その上で、広報チームとして『本当の浸透とは何か』と改めて議論した結果、『クレド・バリューに則り、従業員1人ひとりが自らの成長を楽しむことを体現する、また上司や他者の姿勢を自分の仕事のスタンスや業務に反映させて影響しあう状態』と定義しました」(呉氏)。

そこで2022年2月から試験的に、従業員の自主性にゆだねたボトムアップ施策をスタート。週2時間の業務時間を使って、組織成長につながる「働きやすさ」「働きがい」などのテーマに対し、チーム単位で課題設定・活動を行う内容だ。相互理解が足りないと感じるチームはカードゲーム形式でタイプ診断をするワークショップやランチ交流会を行ったり、スキルアップが必要だと感じるチームはセミナー参加や勉強会を企画したりなど、内容はさまざま。

こうした取り組みはiCAREの健康重視の経営施策としても機能している。また、2023年からは広報チームとしてもコミュニケーション活性施策により注力し、仕事を楽しむ「プロ」へのインタビューを実施し、社内報ラジオで発信するなど、従業員の自分ごと化を促進するような企画を進めている。

ボトムアップからの風土醸成を

カルチャー浸透の現在地については、「浸透がある程度進み、当初の目的である『従業員の納得感醸成』の土壌が整ってきた段階です。結果的に、クレド・バリューを体現している従業員こそ活躍していると感じています」と兼村氏は述べた。

さらに、「活躍できる見込みのある人材の採用」にもつながっていると呉氏。「企業に健康重視の経営が求められている昨今、求職者が企業を選択する際には事業内容や職種だけでなく、組織カルチャーなども差別化ポイントになってきています。その点で、当社のカルチャーに共感したことで入社を希望して下さる求職者も多い印象です。今後も、組織カルチャーの浸透・発信を続けることで『働きがいのある組織づくり』を推進し、企業の持続的な成長に貢献していきたいです」。



iCARE
人事総務部
広報・PRチーム
マネージャー
兼村綾子(かねむら・あやこ)氏

映像制作会社のプロデューサーから広報へキャリアチェンジし、映像・教育・ヘルステックベンチャーの広報立ち上げから拡大フェーズを経験。2022年4月より現職。

iCARE
人事総務部
広報・PRチーム
呉 美里(お・みり)氏

広告・出版業界で営業・販促企画、会員組織やWebメディア運営、広報立ち上げを経験。2021年2月より現職。社外広報を中心に導入事例インタビューなどを担当。現在は社内広報を中心に推進。

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