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社内コミュニケーション 従業員が参画したくなる伝え方

従業員の学習意欲を高めるには現場を主役とした「変革」の推進を

ヤマハ発動機

人的資本経営の手段として注目されている従業員の「リスキリング」。だが、トップダウンで働きかけ、研修などに時間をかけても、従業員が意欲的でなければスキルは身につかない。従業員の学習意欲を高め、人的資本の強化につなげる社内コミュニケーションとは。

DATA
設立年 1955年7月
従業員数 5万2554人(連結会社合計、2022年12月末現在)
DX推進組織 IT本部

「感動創造企業」を理念に掲げ、180以上の国と地域で二輪車やマリン製品の製造・販売などを手がけるヤマハ発動機。電動化やMaaSの加速など不確実性の高い市況の中、同社はデジタル技術による事業の「変革」を目指した「DX(デジタルトランスフォーメーション)戦略」に注力している。

この一環として、従業員全員をDX人材へと育成すべく「データ分析の民主化」を掲げた社内研修を実施。研修は希望制にもかかわらず、2021年には741件636名が受講した。またデータ分析を製造の効率化などに応用し、成果を上げている従業員も出てきている。どのような働きかけで、従業員の学習意欲を高めているのか。同社の「DX戦略」を推進しているIT本部デジタル戦略部 部長の新庄正己氏に聞いた。

事業「変革」のためのDXを宣言

まずDX戦略の目的について新庄氏は「デジタルで当社の強みを活かし、ビジネスを『変革』すること」だと述べ、「最終的に企業目的である『世界の人々に新たな感動と豊かな生活を提供する』ことの達成を図る」と強調。DXはあくまで手段だという「ビジネスファースト」の考え方を明確する。

「DX推進」を始動するきっかけは2018年1月インテルの常務執行役員だったキーマン(フェローに就任)が入社したことだった。当時、製造業はデータ活用の遅れにより、IT業界などと比べ成長が鈍化していた。「データを活用しなければ、事業の長期的な成長が難しい時代となる」、そんな問題意識を持つ人が社内に出てきた頃だった。

フェローはまず、経営層向けに合宿を実施した。「ビジネスファースト」をキーワードに「DXの目的は変革」「ヤマハ発動機ならではの強みを活かす」といった考え方を繰り返し伝え、トップダウンによって「DX推進」の目的や必要性への理解を浸透させた。そして同時に同社の「DX戦略」を固めていった。

社内体制においては2018年、先進技術本部内にコア組織として「デジタル戦略部」(CoE:Center of Excellence)が設置された。この整備にあたり、こだわったのは「多様な知見を持つ人材を揃える」こと。例えば、新庄氏自身は二輪車の開発現場の出身であり、配属当時は「データ分析の素人」だった。ほかにも機械学習やデジタル戦略のスペシャリストなど、各人の歩んできたキャリアはさまざま。だがこれが「『DX推進』に重要な体制だった」と新庄氏は振り返る。

「CoEは製造や開発といった『現場が今、抱えている課題を解決する』ことを追求しながら、現場とともに事業のアップデートを図っていくことを重視しています。『現場に寄り添った』視点でデータ分析の活用を提案することが求められるため、データ活用のスペシャリストだけでなくさまざまな現場の視点も必要となるのです」(新庄氏)。

ただ、この方針はスムーズにいきついたものではない。設立当時、デジタル戦略部の従業員は、「現場に『データ分析を活用すれば便利になる』ということを伝えさえすれば、データ分析の重要性が理解される」と考えていた。しかし1年ほど各事業部を回ったが、現場の従業員にはほとんど話を聞いてもらえなかった。「なぜ話を聞いてもらえないのか」、その要因を分析すると2点のボトルネックが見えてきた。

ヤマハ発動機の「DX戦略」に関する説明資料。DXはあくまで手段だという「ビジネスファースト」を掲げ、3つの柱で事業の変革を目指すことを示した。この資料は毎年アップデートしながら、社内研修やカンファレンスでも活用している。

出所:ヤマハ発動機

現場に理解されなかった理由

1点目は、多様な文化を持つ組織であることだった。180を超える国に拠点を持つ同社は、グループの従業員数が5万人、国内の従業員だけでも1万人を超える。子会社や部署ごとにさまざまな組織文化があるためトップの方針をそのまま伝えても、理解を浸透させるのは難しかったのだ。

2点目は、CoEが「コンサル型」のアプローチを図ろうとしていたこと。「我々は当初、現場に『データ活用をした先の理想像』を提示した上で、そこに向けた走り方としてデータ活用を提案していました。しかしそれが現場目線ではなかった。現場からすると『データ活用をした先の理想像』が『きれいごと』に映り、『そんなツールは...

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