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PR思考で読み解く企業ブランディングの未来

企業ブランディングで未来を変える

Supported by 電通PRコンサルティング

企業の広報戦略・経営戦略をコンサルティングするプロが企業ブランディングのこれからをひも解きます。

今回のポイント
①創業100年を超える企業に見る共通点とは
②SDGs、ESGブランディングのゴールは何か
③守り続けるものと新しい価値の創出

2020年のコロナ禍でスタートした本連載は本稿が最終回となります。まさにこの3年は企業を取り巻く環境が激変、人々の価値観や行動も大きく変わり、組織や事業計画の根本的な見直しを迫られた企業も多かったのではないでしょうか。本連載は先の見えない中でも世の中の潮流を捉え、さまざまな経営課題をテーマに企業広報のあるべき姿を考察してきました。最後となる今回は、これまで企業主体で考えてきた企業ブランディングと「社会」との関係性をあらためて見直し、企業ブランディングの未来を考えてまいります。

100年企業に学ぶこと

「企業は社会の公器である」とは松下幸之助やドラッカーの考えにも通じる言葉。パナソニックはもちろんオムロン、INAX(現LIXIL)などこの考えに基づき企業理念を掲げる企業は少なくありません。また伊藤忠商事は「売り手よし」「買い手よし」「世間よし」の「三方よし」を企業理念としています。

国内の平均的な企業寿命は30年前後とされている中、創業100年を超える企業にはある共通点が見られます。前述したパナソニックなどに代表されるように、常に社会を念頭に、先代が築き上げたその経営理念がずっと引き継がれているという点、加えて創業時から従業員エンゲージメントを重視してきた点です。特に日本は世界の創業100年以上の企業のうち50%を占め、世界1位の長寿企業大国です。

過去の大戦や自然災害、オイルショックやバブル崩壊などさまざまな困難の時代をどのように乗り越え、企業ブランドを守り続けてきたのか、多種多様な老舗企業に学ぶべきことは他にも多くあるはずです。

ゴールは何か

これまでの連載でもお伝えしてきましたが、企業ブランディングは企業姿勢であり、それを社会に示していくことがますます重要になってきています。特に近年では生活者のSDGs、ESGへの関心の高まりと、人的資本の情報開示など非財務情報の開示がより求められていることからSDGsブランディング、ESGブランディングが再注目されています。

しかしながら、SDGs、ESGは一過性のトレンドではありません。ゴールは何か、何のために取り組んでいるかが重要で、活動実態がない企業は痛烈に批判されます。社会における企業の存在価値が以前にも増して明確に問われているのです。

下のは「企業のSDGs・ESG活動を知った後、実際に行動を起こしたかどうか」について、1万人の生活者に向けて行った調査結果を示したものです。

図 企業のSDGs・ESGに対する取り組みを知り行動した人

出典:企業広報戦略研究所「2022年度ESG/SDGsに関する意識調査」

全体の約4割が「企業のサイトを検索した、商品・サービスを購入した、家族や友人に話した」など企業に共感し行動を起こしていました。裏を返せば残りの6割は共感せず行動を起こしていない人たちです。この数字は、まさにこれからの各社の企業ブランディングへの取り組み方次第で変化していくのではないでしょうか。うわべだけの取り組みではすぐに見透かされ、また真摯に取り組んでいたとしてもそれがきちんと伝わっていなければ「やっていないこと」として捉えられるでしょう。

企業への高まる期待

そのSDGsについて、現在地はどうなっているのでしょうか。

昨年末、国連広報センターの根本かおる所長にインタビューする機会があり、根本所長は「今SDGsは危機的な状況にあり、気候変動、コロナ、ウクライナ紛争で進捗どころか後退しています。特にウクライナでの戦争を理由に日本を含む多くの国では気候変動対策、温室効果ガスの削減を後回しにしてしまっていますが、社会全体で何をすべきなのか、企業も行動で示してほしいと思います」と強く話されていました。

企業への期待は今年ダボス会議で発表された米PR会社エデルマンの「トラストバロメーター(信頼度調査)」の結果にも表れています。世界28カ国の自国の政府、企業、メディア、NGOに対する信頼度調査では、その社会信頼度トップがNGOや政府ではなく、グローバルにおいてはまさに「企業」だったのです。

ちなみにブランドが社会連帯を構築できるかという設問では、24カ国で半数以上が「できる」と回答し、企業ブランドに期待している声が多くありました。これは不信と不安定な時代において最も信頼されている組織は企業であり、企業が社会課題を解決することへの期待がより一層高まっているものと考えられます。

新しい社会価値を創る

社会課題の迅速な解決に今やソーシャルイノベーションは不可欠です。その社会課題を解決できるビジネスモデルの構築が多くの企業に期待されています。ソーシャルイノベーションは技術革新で起こるものに限定されません。パラダイムシフトを実現する新たな社会的価値や仕組みを生み出すことができれば、より良い社会へと大きく転換できます。

例えば30年前には、公共の場での喫煙がNGになっているなど到底考えられませんでした。そして今は多くの方が買い物する際にエコバッグを持参しています。また使い捨てプラスチックはもう使わない循環型のビジネスモデルを創出するなど世の中は変わりつつあります。

新しい社会価値を創造することができるなら、企業ブランディングは未来のより良い社会変革に貢献できるはずです。そしてより明確に企業の存在意義を伝えることができれば、多くのステークスホルダーからの支持を得られ、持続可能な成長につながっていくことでしょう。100年企業もそうやって自社の理念を継承したブランドを守り続けながら、新しい時代の価値観に対応してきたのですから。



電通PRコンサルティング
統合コミュニケーション局 チーフ・コンサルタント
中川郁代(なかがわ・いくよ)

官公庁・企業のPRイベントの企画立案、実施運営に長く従事。育休復職後は管理部門で社員の働き方含め、ナレッジシェアなど社の業務効率化を推進。現在は社内外のブランディングをサポートする他、インターナル施策などの企画実施も行う。

取材(国連広報センター)

電通PRコンサルティング
執行役員
井口 理(いのくち・ただし)

PR業界に30年超従事。「Cannes Lions グランプリ」「世界のベストPRプログラム50選」など受賞多数。また各種国内外アワードの審査員を歴任。

企業広報戦略研究所(2013年設立)は、経営や広報の専門家と連携して、企業の広報戦略・体制などについて調査・分析などを行う電通PRコンサルティング内の研究組織。https://www.dentsuprc.co.jp/csi/



OPINION

ジェンダー平等で後れを取る日本は
ビジネスチャンスを逃している

日本でのSDGsの認知率は今や9割を超え、日本ほど社会の中にSDGsが浸透している国は他にはありません。

*第6回「SDGsに関する生活者調査」(2023年2月)/電通 Team SDGs

しかしながらことジェンダー平等については世界の中でも大きく後れを取っているのも事実です。多くの企業が中長期経営計画などではSDGsに言及していますが、自社におけるジェンダー平等への取り組みはどうでしょうか。

女性を対象とする商品のメーカーにおいてさえ、その企業の経営陣は今もまだ大半が男性になっているところが多いのが現状です。そこでは買う側のニーズや課題の直接の当事者ではない人たちが経営方針を決めているのです。経営に多様な目を入れるということは、リスク管理とともに新たなビジネスチャンスにもつながるはずです。SDGsに取り組むことはCSR、メセナをはるかに超えた本業そのものです。

ビジネスで利益を出し、それを持続可能にしていって初めて世の中に大きなインパクトをもたらすことができます。その本業のビジネスチャンスを拡大させていくためにも、まずは社内の変革からぜひ取り組んでいただきたい。それが実現できれば、日本は社会全体がSDGsに取り組むロールモデルになり得るのではないかと思います。

国連広報センター
所長
根本かおる氏

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