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広報担当者のための企画書のつくり方入門

組織・体制づくりから考える グローバル広報の企画の立て方

片岡英彦(東京片岡英彦事務所 代表/企画家・コラムニスト・戦略PR事業)

「広報関連の新たな企画を実現しようとするも、社内で企画書が通らない……」。そんな悩める人のために、広報の企画を実現するポイントを伝授。筆者の実務経験をもとに、企画書作成に必要な視点を整理していきます。

グローバル広報の体制づくり

広報業務の経験者の中でも「グローバル広報」(海外に向けた広報活動)の経験者は少ない。日本企業の多くは日本市場でのみビジネスを展開していることが多く、海外市場に輸出事業などを展開している場合でも、現地での広報活動に関しては海外支社や子会社、あるいは販売代理会社などに任せている場合も多い。今回は分かっているようで、あまり分かっていないとされる海外での広報展開について、組織・体制づくりを中心に考えていく。

視点1
事業体制と広報体制の関係

グローバル型かマルチドメスティック型か

グローバル広報に関する相談を受けた時、最初に話を聞くのは、広報活動のことではなく、会社全体の事業体制についてだ。特に注意深く聞くのは、その企業が「グローバル型」か「マルチドメスティック型」かについてである。

グローバル型は、広報活動を含め大きな意思決定を本社が行うタイプの事業モデルのことをいう。組織的にも主要な機能は日本本社にある。営業やカスタマーサポートなど、現地でないと行うことが難しい対面活動を中心に現地化している。

一方、マルチドメスティック型は、例えばアメリカ国内の事業についてはアメリカ支社(または子会社)が、大きな責任と権限を持ってビジネスを行う事業モデルのことだ。複数(マルチ)の国内(ドメスティック)事業が並立しているイメージになる。広報部門では重要な情報については、本社と海外拠点との間、また海外拠点同士で情報共有を行うが、自分たちの国内向けだけに関連するような情報までは、相互に共有することは少ない(図1)。

図1 グローバル型広報とマルチドメスティック型広報

著者作成


海外向け広報を積極的に行ってこなかった広報部門が、新たに海外展開を開始する際には、「体制づくり」から始めなくてはならないが、自社のビジネスモデルがグローバル型であれば、広報チームも極力グローバル型を、逆にビジネスモデルがマルチドメスティック型であるならば、広報チームの体制もマルチドメスティック型で行う方がうまく業務が回っていくことが経験上では多い。

視点2
グローバル型広報の場合

本社からの情報を現地向けに最適化

グローバル型広報では、基本的に日本国内に向けて日々行うコミュニケーション活動と同じことを海外に向けても行うこと(ミラーリング)が前提となる。海外の各地域の広報戦略の立案や具体的な施策の多くは、本社の広報部門が直接日本から行うことになる。このため本社の業務負担は大きくなる。例えば、「プレスリリースの発行」の例として挙げるとすると、図2のような流れになる。

図2 プレスリリース発行の流れ(グローバル型広報の場合)

① リリース原文の作成
② ローカライゼーション(地域化)
③ 翻訳
④ 最終確認
⑤ 発行(公開)
⑥ 取材対応
⑦ 掲載確認


仮に「原文=日本語」であり、英語リリースを海外向けに発行するのであるならば、「翻訳(トランスレーション)」の前にローカライゼーション(地域化)の作業が必要となる。日本国内向けに用意した原文(日本語)を、そのまま「翻訳」して海外向けに公開するわけにはいかないからだ。日本で販売する製品と海外向け製品とでは、製品仕様、デザイン、サポート内容、販売拠点などが異なることが多い。リリース内容自体を現地の状況に合わせて変更していく必要がある(図3)。

図3 ローカライゼーション(地域化)が必要となる項目の例

● 製品・サービスの仕様/販売方法/アフターサービス情報/発売日(国によって仕様や内容が異なる場合)
● 法律・商習慣・文化の違いへの配慮(免責事項、クーリングオフなど)
● リリースの発行主体/問い合わせ先(現地メディアからの問い合わせは海外拠点で受ける場合)

ローカライゼーションで重要なのは、地域ごとに異なる現地情報とインサイト(洞察)を本社の広報部門(担当者)がしっかり掴みきれているかという点だ。日本で開発した製品の情報であれば、本社の広報部門がローカライゼーションに関連した情報を得やすいだろう。

しかし、市場(顧客)に近い情報、例えばプレスリリース上に掲載するキャッチフレーズが、ある国や地域において適切な表現かどうか(消費者からクレームがくるような内容かどうか)を見極めることは簡単なようで実は非常に難しい。その地域の文化やメディア、生活者に関する日常的なインサイトの吸収が重要であり日々欠かせない。


体制図を用意しておく

日本国内と英語圏の2パターンだけでも、文章構成やビジュアル表現などあらゆる面で受け入れられ方には差があることが普通だ。さらに、中国語や韓国語、欧州向けの仏語、独語などへの翻訳も加わる場合には、それらの地域の現状に応じたローカライゼーションが必要になる。こうしたことから、グローバル型広報のローンチのための企画書を書く際には、まず「ローカライゼーション」について、どの組織(チーム)の、誰が、どこまでを行うのかについて、入念に準備・調整した上で、体制図から用意するよう勧めている。

また、翻訳作業を行う担当部署(担当者)は、必ずしもローカライゼーションができるとは限らない。製品やサービスの「仕様、及び提供方法、サポート」等の内容自体に関わるローカライゼーションと、言語表現、翻訳(トランスレーション)とは別の話なので、この点は心しておきたい。


ローカライゼーションの問題はプレスリリースの発行のみに関わるものではなく、「広報戦略をどのレベルまで地域ごとに最適化していくか」といった広報戦略の根幹に関わる問題である。またクリエイティブに関する議論においても、広告クリエイティブやSNSアカウントを地域ごとに何パターン用意するべきかなど、戦略立案から具体的なコミュニケーション活動に至るまで、常に判断を迫られることになる。

視点3
マルチドメスティック型の場合

現地広報の機動力が問われる

支社や子会社、販売代理店などに権限委任し、現地主体でマネジメントしていく「マルチドメスティック型」の事業モデルの場合、「ローカライゼーション」の多くを現地法人や支店などの担当者が行うことになる。また、プレスリリースなどの翻訳も現地の広報部門が行うのが一般的だ。従って、本社がどのタイミングで事前に情報を現地に共有し、各地域が独自の視点でローカライゼーション(及び翻訳作業)を行うのか、どのくらいのリードタイムが情報公開までに最低限必要かなど、オペレーション上の“機動力”と“精度”が試されることになる。

また、本社からの情報共有があった時点で、各地域では並行して地域ごとに最適化された広報活動の準備に入る。本社の広報部門では、同時に並行して行われる各地域のリリース準備の状況をある程度“全体把握”する必要がある。

本社による“監督”の権限が強い場合は、例えば、海外支社や海外子会社側が現地市場に最適化してローカライゼーションを行ったリリース内容を、本社が最後にまた確認をするなど、企業によって本社と現地との広報業務のオペレーションは様々である。


図4 マルチドメスティック型広報の3つのリリースのタイプ

① 日本本社が元となる情報を用意し、各国で公開する場合(全社リリース)
② 特定エリアが情報を用意し、特定エリア内でのみ公開する場合(地域内リリース)
③ 特定エリアが情報を用意し、日本本社を経由して各国で公開する場合(地域リリースの全社化)

図4の②(地域内リリース)は、例えば海外の現地法人が現地で提供するサービスを企画開発しローンチすることになった場合などに使う。その情報を現地法人が自社のビジネス情報として自分たちのエリアでのみ公開するのであれば、現地法人が現地語でドラフトを作成し、他国のためのローカライゼーションは意識せず公開することになる。

一方③(地域リリースの全社化)のように、現地法人の発表情報を、日本本社を経由して各国でも公開する場合は、本社が主導して発信する全社情報と、現地法人が発信する地域内リリースとの間で内容の整合性を確認することが必要になる。

本社広報の主導で全社リリースとして世界各国に向けて発信される場合には、「現地法人による新しい事業が本社全体に大きな影響を与える」という「大きなストーリー(物語)」として機能することになる。現地法人の広報担当者と本社の広報担当者は事前に連携しリリース内容を一本化してしまうことも多い。

図5 地域リリースの全社化のパターン

● 現地法人の広報担当者Aがドラフト作成
        ▼
● 現地法人の広報担当者Aと、本社広報担当者Bとの間で情報共有と内容調整を行う
        ▼
● 本社広報担当者Bから他の地域への広報担当者(C、D、E…)への情報共有
        ▼
● 各地域の広報担当者によるローカライゼーションと翻訳作業(C、D、E…)
        ▼
● 日本本社(A)及び、各地の現地法人(B、C、D、E…)によって同時に公開


このようにマルチドメスティック型の広報体制では、本社及び現地広報の担当者との緊密な連携が非常に重要だ。ただし、あくまで各地域が独立した広報活動に関する意思決定を行うことが前提である。時に、本社主導で全社情報を各エリア情報へとローカライゼーションすることもある。または時にはエリア情報を本社が...

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