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青山デザイン会議

手のひらに「物語」を再現するミニチュアの世界

赤井 都、近藤正拡、田中達也

鉄道模型やドールハウス、ジオラマ……。今回の青山デザイン会議では、“映える”ことからSNSでも人気を集めているミニチュアの世界に注目しました。

集まってくれたのは、独学で豆本をつくり始め、国際的な豆本コンペティションで日本人として初受賞、個展や著書を通じて、独創的で繊細な豆本を生み出し続けるブックアーティストの赤井都さん。「エヴァンゲリオン 第3新東京市」をはじめ、世界の街や宇宙センターなどを80分の1スケールで再現した世界最大級の屋内型ミニチュアテーマパーク「SMALL WORLDS」ファウンダーの近藤正拡さん。ミニチュアの視点で見立てた作品をSNSで発表、国内外で「MINIATURE LIFE展」を開催するほか、CMや広告のビジュアルも手がけるミニチュア写真家の田中達也さん。

懐かしい気持ちになったり、ワクワクしたり、そもそも私たちはなぜミニチュアの世界に惹かれるのか。人の心を動かす、手のひらのクリエイティブに迫ります。

なぜ人はミニチュアに惹かれるのか

近藤:2020年に東京・有明にオープンした「SMALL WORLDS」というミニチュアのテーマパークに、ファウンダーとして関わっています。私がミニチュアの世界に入るきっかけは、東京ディズニーランドをつくった堀貞一郎さんと出会ったこと。堀さんがディズニーランドのあとに考えていたのがミニチュアのテーマパークだったことを知って、数年間議論をする中でSMALL WORLDSの構想がまとまっていきました。

田中:ミニチュアを使って、日常にあるものを別の何かに見立てる作品をつくって、毎日SNSで発表しています。使っている人形は約2センチで、SMALL WORLDSさんと同じくらいのスケール感ですね。

赤井:私はこの中ではひとりだけ、クラフトの世界で活動をしています。元々は、自分が書いた小説を本にしたいと考えていたのですが、ある古書店のご主人から「豆本は世界中にコレクターがいるんだよ」と聞かされて。初めてつくったハードカバーの豆本で国際コンペで賞をいただいて、以来18年間、豆本をつくり続けています。

近藤:ちなみにSMALL WORLDSは、ただ展示をするのではなく、自分がミニチュアの世界に入って物語をつくろう、ものづくりで遊ぼうというのがコンセプト。見た人たちが自分なりの解釈で楽しんでいる、田中さんのやられていることと近いなと思って拝見していました。

田中:それは光栄です。僕は子どもの頃からプラモデルが趣味で、ガンダムの横に鉄道模型の人形を一緒に置いて飾っていました。10年ほど前から、ミニチュアを被写体にした作品を撮っていくうちに「見立て」という表現が加わって、徐々に作風が固まっていった感じですね。

赤井:誰でも子どもの頃、ツルッとした葉っぱの上を滑りたいとか、ピザの上で遊びたいなんて思ったことはありますよね。皆さんのアプローチを見て、その感覚が呼び覚まされるというか、すごく現代的な欲望を満たしているなと感じました。

近藤:私が引き込まれたのもまさにそこで、ミニチュアは人間の欲望や感情を表現するのに、一番手っ取り早い手法じゃないかと思っているんです。

田中:展覧会のお客さんからも「懐かしい」とか「そんな、ごっこ遊びをしてみたかった」と言われることがあるんです。ミニチュアなら世界中を冒険できるし、宇宙に行くこともできる。自分ができないことを叶えられるのが魅力ですよね。

近藤:SMALL WORLDSをつくるにあたって世界中を回ったのですが、形は違えどどの国にも必ずひとつはミニチュアのパークがあるんです。ただ、日本のこだわりは別次元。どんどんサイズを小さくしていくっていうモチベーションはやっぱり、日本人とドイツ人、ロシア人が圧倒的ですね。

赤井:どこも豆本で有名な国ばかりですね。ちなみに、豆本って4000年ぐらいの歴史があって、紀元前2000年にメソポタミアの粘土板にくさびで書かれたものも実は豆サイズなんです。

田中:それはすごい!でも豆本って、虫眼鏡で読むんですか?

赤井:肉眼で読めるというのがミニチュアブックの定義で、それより小さいものはマイクロブックと呼ばれて、1ミリ以下のナノブックもつくられています。革張りで金箔が押してあったり、錠付きでポップアップの仕掛けがあったり、小さいのですごく自由度が高くて冒険できるのが特徴です。

田中:もはやアート作品ですね。

赤井:共産圏の国だと昔は財産が持てなかったので、投資的な意味で豆本を持っていたなんて話を聞いたこともあります。

田中:ジオラマとかミニチュアってほぼ芸術品なのに、アートとして売り買いされないのが、いつももったいないと感じていて。もっと付加価値があれば、暮らしやすくなるんじゃないかなと思うんですけど。

近藤:ヨーロッパと違って、日本にはその市場がないので、小さいパイの奪い合いになりがち。SMALL WORLDSに海外の方が遊びに来ると、「オークションはないのか」とか「作品は販売していないのか」と聞かれて、「この作家さんだと、これぐらいの値段で売られている」と答えると、「安い!」って言われますから。

赤井:ドールハウスの世界ではすでに、家1軒や部屋1個が驚くべき値段で取引されているので、次に来るのはジオラマかもしれませんね。

    MIYAKO AKAI'S WORKS

    『Beautiful Book 美しい本』愛書家版

    『Alice’s Adventures in Wonderland』愛書家版

    『一千一秒物語〈ラストエディション〉』 Photo:© FRAGILE BOOKS

    『Dogs Cats 犬 猫』特装版(戸矢崎満雄 著)

    『Spiral』

    『そのまま豆本』(河出書房新社) Photo:©Studio LASP

SNSにちょうどいい情報量とは?

近藤:最近では、インバウンドの外国人観光客や年配世代の来場も増えてきましたが、SMALL WORLDSのお客さんで一番多いのは30代の女性。そういう若い層が動いているというのは、今後期待できる市場だとも言われます。

赤井:男性とか家族連れではないんですね。

近藤:ミニチュアのテーマパークというと子ども向けと思われがちですが、うちはどちらかというと大人向けにつくっているので。滞在時間を見ても、やっぱり一番長いのは、30代の女性グループですね。

田中:全国各地で開催している「MINIATURE LIFE展」のお客さんも、30~40代の女性がメイン。きっとSNSにあげる写真を撮りたいというのも、ひとつの理由でしょうね。

赤井:今はSNSがあることで、ミニチュア的なものがすごく拡散していますよね。

田中:ちなみに、豆本の場合は、どうやってアピールするんですか?

赤井:立体で写真1枚では表現するのが難しいので、動画で制作過程を見せたり、作者が語ったり。真似されるからアップしないという作家さんもいるけれど、それも文化だからいいだろうと考えて、いろんな手段でシェアしています。

近藤:田中さんの作品を見ていてすごいなと思うのは、情報量がちょうどいいこと。想像力がかき立てられるというか、自分なりの物語が膨らんでいく。これがSMALL WORLDSだと情報量が多すぎて写真や動画ではうまく表現できないし、逆に豆本だと、おそらく情報量が少なすぎる。どれぐらいの情報量で見せるのがいいのか、いつも試行錯誤しています。

田中:SNSだと一瞬で通り過ぎるので、2~3秒で理解できるように意識しています。とはいえ、すぐわかってしまっても面白くないので、そのさじ加減というか。大型の作品は反応が悪いことも多いので、やっぱり現場で楽しめるものと、写真として楽しめるものは違うんですよね。

赤井:豆本だと、光によって質感や表情が変わるのも難しくて。最近では、あんまりいいね!に一喜一憂していなくって、わかる人だけに深く届いてくれればいいやと開き直っています(笑)。

田中:写真だけで満足しちゃって、実物が売れないと困りますもんね。

赤井:あとはつくれる量に限りもあるので、ポツリポツリと注文が入るぐらいがちょうどいい。クラフト作家って、そうやって無欲になっていくんです(笑)。

田中:でもやっぱり、つくることが楽しいから続けているし、つくり続けるためにお金を稼ぐわけで。そこが本末転倒にならないようにしないといけないですよね。

赤井:まさにその通りで、自分が好きでつくっているものを「欲しい」と言ってくれる人がいることがすごくありがたいし、その人の手元で作品が存在し続けるのが嬉しい。世界中あちこちの書斎や書庫、図書館に...

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