フェイクニュース:ブランドが誤報・虚報の蔓延を防ぐには

デジタルメディアやソーシャルメディア上では、誤った情報が蔓延している。フェイクニュースとも呼ばれる誤報もしくは虚報の拡散は欧米で社会問題にまでなっている。グローバルメディアエージェンシーIPG Mediabrands のニューヨーク本社でメディア戦略を担当する副島奈美氏が、デジタル時代になぜ誤った情報が広まっているのか、また、ブランドや代理店がそのような誤った情報をどう防ぎ、回避すべきか説明する。

誤報・虚報とは?

誤報とは、誤った情報や報告、および報道のことを指す。誤った情報は単純なミスから生まれるものもあるが、誤報に遭遇した人々の間に広がり、誤った認識や信念を生み出す可能性がある。 たとえば、コロナが流行り始めたころ、コロナ・ワクチンに関する誤った情報が蔓延し、人々の間で混乱が生じた。その結果、ワクチンに対する不安が高まり、一部の人の間ではワクチン拒否などを及ぼす結果となった。 (注1)

さらにやっかいなのが、偽情報が意図的に拡散されている場合だ。虚報と呼ばれる悪質な情報操作の例としては、2020 年のトランプ大統領による不正選挙の申し立て、ロシアによるウクライナでの戦争に関する情報操作、ブラジルでの最近の選挙偽情報などがある。 このような偽情報は、プロパガンダの拡散と政治的不安定につながる可能性があり、各国で大きな問題となっている。 (注2)

なぜ誤報・虚報が増えているのか?

IPG のメディア シンクタンクである Magna が Zefr と共同で実施した最新の調査によると、消費者の 93% が誤った情報に遭遇したことがあり、82% が誤報は近年増加していると答えている。 (注3)

出典:MAGNAとZefrによるメディア調査

誤った情報が蔓延する原因となっている要因は複数ある。

1 つ目に、デジタルメディアとソーシャルメディアの台頭により、誰もが「ジャーナリスト」になることが可能になり、世界中の何千、何百万という人々が見ることができる情報を広めるためのツールと手段が彼らに与えられた。 特に、Facebook や Twitter などのソーシャルメディア プラットフォームは、ユーザーが作成したコンテンツが他のユーザーを通じて広まるため、誤った情報が拡散する可能性が高い。

第 2 に、Deepfake や ChatGPT などの AI テクノロジーにより、本物のように見えるコンテンツを簡単に作成できるようになり、一般の人にとって情報が本物か偽物かを判断することが難しくなってきたことがあげられる。

そして最後に、誤報・虚報を助長する要因として、社会的不安定化や政治的二極化などの社会的背景がある。 QANon やネオナチなどと呼ばれる陰謀グループや過激派の数は年々増加しており、デジタルメディアやソーシャルメディアを介して拡散されるにせ情報の源になりつつある。 (注4)

ブランドが誤報・虚報を回避するには?

このような誤報や虚報と隣接したところで広告を打つことはブランドにとって悪影響を及ぼす可能性がある。先に引用したMagnaとZefrの調査によると、大半(63%)の消費者が、誤った情報のそばにある広告は、ブランドに対して悪い印象を与えると答えた。 さらに、下記のデータにみられるとおり、消費者はブランドが誤った情報に対するポリシーを持つ必要があり、誤った情報に近づかないようにあらゆる努力をする責任があるとしている。

出典:MAGNAとZefrによるメディア調査

ただし、誤報・虚報の回避を行うのは簡単ではない。多くのデジタル広告は、特定の視聴者に対して広告を打っており、デジタルメディアやソーシャルメディアで表示されているすべてのコンテンツを吟味することは困難だ。にせ情報を回避するためには、メディアパートナーやプラットフォームと協力し、ジャーナリズムの整合性と、誤報を防止するプロセスとポリシーを備える必要がある。

IPG Mediabrands では、そのために、NewsGuard、The Global Disinformation Index (GDI)、ZEFR などのテクノロジー・パートナーと組み、複数あるサイトのうち、どれが偽情報の発信元になりうるかを特定する活動に取り組んでいる。また、広告業界連合 Global Alliance for Responsible Media (GARM) の一環として、主要なソーシャルメディア プラットフォームに対し、誤報を防ぐプロセスとポリシーを活用しているかを吟味している。また、Magnaは常にメディア企業の動きを把握しており、買収などにより誤報・虚報に関するポリシーが変更になる可能性がある場合、クライアントにアドバイスをし、広告出稿を止めることもある。(注5)

しかし、こうしたあらゆる努力にもかかわらず、誤報がすぐになくなることはまずない。 そのため、ブランドは最新の状況を認識し、広告ポリシーと媒体に細心の注意を払う必要がある。

“If it is the purpose of a brand to serve the public, and advertising is the way to build brands, then brands need to ensure that the same media channels used for advertising to reach people do not result in or contribute to harm.”
– Joshua Lowcock, Global Brand Safety Officer, UM

「消費者に価値を提供することがブランドの使命であり、広告がブランドを構築する手法である以上、ブランドは、広告に使用されるメディアが人々に害をもたらしたり、害を与えたりしないようにする必要があります。」
– ジョシュア・ローコック、グローバル・ブランド・セーフティ オフィサー、UM

結果を得たいと考えているマーケティング担当者にとって、誤った情報に広告を出稿することを回避するためのポリシーとプロセスを整備することは、今後ますます重要になるだろう。

出典

(注 1)
https://www.businessinsider.com/guides/tech/misinformation-vs-disinformation
https://www.nytimes.com/2022/12/28/technology/covid-misinformation-online.html

(注2)
https://www.npr.org/2021/03/05/971767967/trump-is-no-longer-tweeting-but-online-disinformation-isnt-going-away
https://abcnews.go.com/Business/wireStory/word-war-russia-ukraine-war-information-weapon-97407144
https://www.reuters.com/world/americas/brazil-election-marked-by-disinformation-networks-says-carter-center-2022-11-05/

(注3)
https://magnaglobal.com/magna-research-with-zefr-misinformation/

(注4)
https://www.nytimes.com/2021/05/07/world/asia/misinformation-disinformation-fake-news.html
https://diginomica.com/chatgpt-has-potential-spread-misinformation-unprecedented-scale
https://www.theguardian.com/technology/2020/jan/13/what-are-deepfakes-and-how-can-you-spot-them

(注 5)
https://www.ipgmediabrands.com/ipg-mediabrands-latest-media-responsibility-index-proves-top-platforms-have-responded-favorably-to-networks-media-responsibility-push/
https://www.newsguardtech.com/
https://wfanet.org/leadership/garm/garm-resource-directory-%28weblog-detail-page%29/2022/05/17/GARM-Aggregated-Measurement-Report-November-2022

 

IPGメディアブランズ

IPGメディアブランズは、インターパブリックグループ(IPG)において、データ分析に基づきメディアおよびデジタルを通じたマーケティングソリューションを提供する企業グループです。メディアブランズは、クライアントのエージェンシーとして世界中で約400億ドルのマーケティング投資を管理しています。また、数々のアワード受賞歴を誇るフルサービスエージェンシーネットワークのUMとInitiative、および革新的ソリューションのスペシャリスト組織であるReprise、MAGNA、Orion、Rapport、Mediabrands Content Studio、IPG Media Lab等を通じて戦略的なサービスとソリューションを提供しています。 メディアブランズのクライアントには、幅広い業種にわたり、世界で最も知名度の高い、アイコニックなブランドが多数含まれています。また、130カ国以上でダイバーシティに富む13,000人以上のマーケティングスペシャリストが活躍しています。日本では、メディアプランニングとバイイングの両方を提供できる唯一のグローバルエージェンシーです。1960年のマッキャンエリクソン博報堂設立以来、2007年のIPGメディアブランズジャパン設立を経て、グローバルと国内双方のクライアントと取引を持っている。

執筆者 副島奈美 Nami Soejima

父の仕事の関係で小学校時代をアフリカで過ごす。日本の中学・高校を卒業後米イェール大学に進み、政治経済を専攻。その後東京のソニー(株)に就職し、本社スタッフとして東京・NYオフィスで働く。2003年に米コロンビアビジネススクールに進み、MBAを取得。卒業後は戦略コンサルティング会社、デジタル・エージェンシ―を経て、現在グローバルの大手広告代理店ユニバーサル・マッキャンにてグローバルメディア戦略を担当。クライアントのビジネス成長のために必要となるターゲット層の分析やデータを活用したターゲティング手法などを担っている。2児の母として、女性スタッフの活躍もサポートしている。

 

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