ソーシャルコマース:ソーシャルメディアとショッピングの融合

ソーシャルメディアとeコマースの融合により広告から直接購入につなげるソーシャルコマース。グローバル・メディアエージェンシーIPG Mediabrandsのニューヨーク本社でメディア戦略を担当する副島奈美氏がその動向を解説する。

ソーシャルコマースとは

Instagram、Facebookなどのソーシャルメディアを通じて直接オンラインショッピングを行ったことはあるだろうか?洋服や化粧品のコンテンツをクリックしたらその場で買えた、という経験をした人は少なくないと思う。これが、最近多くのブランドが活用しているソーシャルメディアを用いたショッパブル・メディア、別名ソーシャルコマースだ。

メディアから直接購買を行うという考え方は新しくない。TVショッピングやカタログショッピング、また店頭販売なども概念的にはショッパブル・メディアと言える。だが、多くのマーケターが現在注目しているのは、主にソーシャルメディアを活用したソーシャルコマースだ。

まだアメリカでは成長期に入ったばかりのソーシャルコマースだが、デジタルトレンドを追っている調査会社eMarketerは2025年にはアメリカだけで1,000億ドル市場になると予測している(注1)

(米国ソーシャルコマース市場、出典: eMarketer)

なぜソーシャルコマースは拡大しているのか

マーケターがソーシャルコマースに注目している理由としては複数ある。まず、消費者がソーシャルメディアでブランドのコンテンツを見ている時間が増えてきたこと。インターパブリック・グループ(IPG)の市場調査機関であるMAGNA とパフォーマンスエージェンシーのRepriseによるとソーシャルメディアのグローバル利用人口は全人口の60%に達しており、1日平均2時間半をソーシャルメディアに費やしている(注2)。二点目に、Eコマースの成長により、課金やロジスティックスなどのインフラが整い、オンラインによる購買が容易になってきたこと。そして最後に、データ分析を用いて、誰がいつどのメディアを見たことによって購買が促されたかがわかりやすくなってきており、パーソナライズされたコンテンツおよびメッセージが提供できるようになったことがソーシャルコマースの成長要因としてあげられる。

(グローバル・ソーシャルメディア月間ユーザー数、出典: MAGNA)

その結果、Instagram, Facebook, TikTok, Pinterest、WeChatといったソーシャルメディアは、こぞってソーシャルコマースの機能に投資をしており、コンテンツから購買へのリンクが非常にスムーズになってきている。

たとえばInstagram上で購買を促したいと思った場合、まずはInstagram上でオンラインショップと商品カタログを作成し、コンテンツを作成する際にProduct Tagと呼ばれるリンクをつける。そうすることによりコンテンツを通じて興味を持った消費者はその場で購買が可能になる。結果、広告もしくはコンテンツを観た消費者は、お店を訪れたり、電話をかけたりすることなく、その場で商品を購入することが可能になる。

もちろん商品を購買した人に送付したり、クレームに対応したりといった業務は別途発生するが、ソーシャルコマース機能は既に確立されたブランドにとって非常に便利だ。また、実店舗を持てないスタートアップや店舗が限られている中小企業なども容易に活用できる。ソーシャルコマース機能はShopifyなどのEコマースプラットフォームとも連動しており、すでにEコマースサイトを立ち上げたブランドにとっては更に活用しやすい(注3)

 

(Instagramのソーシャルコマース機能 出典: Instagram) (注4)

ライブストリーム・ショッピング

ソーシャルコマースの新しい活用方法の一つにライブストリーム・ショッピングがある。ソーシャルメディアでライブストリームを行いながら、購買を促すこの手法は、中国でまず流行し、コロナのロックダウン期に各国でヒートアップし、様々なブランドが活用し始めた。まだ手探り状態ではあるが、エンタテインメントとショッピングの要素を両方備えたライブストリーム・ショッピングは、今後成長することは間違いない。

 

(Amazon Live出典: Amazon) (注5)

IPGのイノベーションを担うIPG メディアラボは、TikTokやAmazonなどのグローバルプレイヤーがライブストリーム市場をリードするであろうと予測しつつも、スタートアップの動きにも注目している。NTWRK、Talkshoplive、 Popshopなどのライブストリーム・プラットフォームは2021年に成長し、VCからの投資もあった。ソーシャルコマースが成長を続ける中、今後どのプラットフォームや機能が生き残れるのか、スタートアップ市場にも注目したい(注6)

ソーシャルコマースを活用するためには

成長し続けるソーシャル コマースを上手く活用するためには、ブランドはコンテンツとコマースが融合されたエクスペリエンスを生み出す必要がある。従来の広告宣伝と既存の販売チャンネルに依存している多くのマーケターにとっては、新しいスキルとプロセスが必要になってくるだろう。そのスキルを磨き、ソーシャルコマースを上手く活用できるようになったブランドは、新しい消費者を獲得することができるようになり、競合他社との差別化が図れることにもなる。そのためにはソーシャルメディア企業や e コマース プラットフォームと協力し、新しい技術に果敢にトライし続けることにより、最終的にはソーシャルコマースの成長の波に乗ることができるだろう。

出典

(注1)
https://www.insiderintelligence.com/content/platforms-catch-social-commerce-fever-with-varying-degrees-of-success

(注2)
https://atlas.magnaglobal.com/magna-service-dashboard/web

(注3)
https://www.shopify.com/enterprise/social-commerce-trends

(注4)
https://business.instagram.com/shopping/guide-and-best-practices

(注5)
https://www.amazon.com/b?ie=UTF8&node=21103266011
https://www.amazon.com/live

(注6)
https://medium.com/ipg-media-lab/the-maturing-live-commerce-infrastructure-59720bb3907b

 

IPGメディアブランズ

IPGメディアブランズは、インターパブリックグループ(IPG)において、データ分析に基づきメディアおよびデジタルを通じたマーケティングソリューションを提供する企業グループです。メディアブランズは、クライアントのエージェンシーとして世界中で約400億ドルのマーケティング投資を管理しています。また、数々のアワード受賞歴を誇るフルサービスエージェンシーネットワークのUMとInitiative、および革新的ソリューションのスペシャリスト組織であるReprise、MAGNA、Orion、Rapport、Mediabrands Content Studio、IPG Media Lab等を通じて戦略的なサービスとソリューションを提供しています。 メディアブランズのクライアントには、幅広い業種にわたり、世界で最も知名度の高い、アイコニックなブランドが多数含まれています。また、130カ国以上でダイバーシティに富む13,000人以上のマーケティングスペシャリストが活躍しています。日本では、メディアプランニングとバイイングの両方を提供できる唯一のグローバルエージェンシーです。1960年のマッキャンエリクソン博報堂設立以来、2007年のIPGメディアブランズジャパン設立を経て、グローバルと国内双方のクライアントと取引を持っている。

執筆者 副島奈美 Nami Soejima

父の仕事の関係で小学校時代をアフリカで過ごす。日本の中学・高校を卒業後米イェール大学に進み、政治経済を専攻。その後東京のソニー(株)に就職し、本社スタッフとして東京・NYオフィスで働く。2003年に米コロンビアビジネススクールに進み、MBAを取得。卒業後は戦略コンサルティング会社、デジタル・エージェンシ―を経て、現在グローバルの大手広告代理店ユニバーサル・マッキャンにてグローバルメディア戦略を担当。クライアントのビジネス成長のために必要となるターゲット層の分析やデータを活用したターゲティング手法などを担っている。2児の母として、女性スタッフの活躍もサポートしている。

 

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