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経済学の視点

行動経済学の限定合理性こそ合理的

依田高典氏(京都大学大学院)

少数派の2割こそがイノベーションをもたらす

人間には、様々な“心の癖”がある。例えば、自分や他者のためになる行動だと分かっていても、自発的にその行動ができる割合は2割にとどまるという「2割の壁」もそのひとつだ。

重い腰を上げて壁を越える人が少数にとどまる理由として、現在の選択肢にこだわる「現状維持バイアス」が存在すると考えられる。そして、その背景には、さらに、人間が現在という瞬間を特別に重視する「現在性バイアス」と100%確実であることを特別に重視する「確実性バイアス」が存在すると考えられる。

伝統的経済学では、人間は確率的な世界、つまり失敗しても繰り返して期待値の最大化をはかると想定されてきた。しかし、過去から未来へと時間が一方向に流れる現実の世界では、失敗してもサイコロを振り直せない。だからこそ、生身の人間は、「現在性」と「確実性」を重視するのである。さもなければ、無謀な挑戦のために、やり直しの利かない失敗や怪我に苦しんで、人間はきっと後悔するだろう。行動経済学の描くバイアスにこそ、進化論的に裏付けられた別の合理性があるのではないだろうか。

2割の壁を考える上でヒントになるのが、スタンフォード大学の社会学者であるエベレット・ロジャースが提唱した「イノベーション普及学」だ。ロジャースは...

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