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グッドデザイン賞 2022レポート

安次富隆×齋藤精一「グッドデザイン賞2022」を振り返る

安次富隆、齋藤精一

2022年度のグッドデザイン賞は、国内外から5715件の応募があった。前年に引き続き審査委員長を務める安次富隆さん(写真左)と、審査副委員長の齋藤精一さん(写真右)が、本年度の審査について総括する

審査委員長
安次富 隆(あしとみ・たかし)

プロダクトデザイナー。ザートデザイン 取締役社長。ソニー デザインセンターを経て、1991年にザートデザインを設立。2008年より多摩美術大学生産デザイン学科プロダクトデザイン教授。情報機器や家電製品などのエレクトロニクス商品のデザイン開発、地場産業開発、デザイン教育などの総合的なデザインアプローチを行っている。2020-2022年グッドデザイン賞審査委員長。

審査副委員長
齋藤精一(さいとう・せいいち)

クリエイティブディレクター。パノラマティクス主宰。1975年神奈川県生まれ。建築デザインをコロンビア大学建築学科(MSAAD)で学び、2000年からニューヨークで活動を開始。2003年の越後妻有アートトリエンナーレでアーティストに選出されたのを機に帰国。フリーランスとして活動後、2006年ライゾマティクス(現:アブストラクトエンジン)を設立。2016年から社内の3部門のひとつ「アーキテクチャー部門」を率い、2020年、社内組織変更で「パノラマティクス」へと改める。2018-2022年グッドデザイン賞審査副委員長。2020年ドバイ万博日本館クリエイティブ・アドバイザー。2025年大阪・関西万博 People's Living Lab クリエイター。

賞への熱量と社会不安は反比例

──2022年は、社会とデザインにとってどのような1年でしたか。

安次富:グッドデザイン賞の応募には審査料が必要なため、コロナ禍や物価高騰などの不安定な状況から、応募数は減少するかと思われました。ただ、意外にも2021年度は応募件数が1000件以上増加し、2022年度もほぼ同水準。グッドデザイン賞への応募の熱量と社会不安は反比例の関係で、世の中の非日常的な生活や不安をデザインで変えていこうという、デザインの力を信じている雰囲気を感じました。

齋藤:グッドデザイン賞でも問題の大小にかかわらず、目の前の課題をいかに解決するかという議論が起こったことは大きな時代の変化だと思い、社会の脆さと同時に人間の強さも感じられました。応募件数の増加も含め、マイクロイシューへの取り組み、そしてソリューションの創出は、「誰もやらないのであれば自ら行動を起こす」という姿勢の表れだと捉えることもできます。ネガティブな話題をポジティブな力で押し返すという流れが、最近の傾向といえるかもしれません。

デザインの「原点」に戻るために

──2022年度のテーマは「交意と交響」。その意図と、応募作品の傾向は。

安次富:「交意」は齋藤さんの造語で、「交響」は私の考えです。過去2年は、「交感」(20年度)と「希求と交動」(21年度)というテーマで、常に齋藤さんと私、事務局メンバーが議論を重ねてきました。

今回については、僕自身はデザインの原点に戻るべきという思いがありました。デザインの原点とは、「世の中をこう変えたい」という意志であり、アイデアを考えて行動に移すには、意志がなければ進みません。それだけに、1人ではなく、多くの人々の意志の力を交えていくという意味で、齋藤さんの造語は絶妙でした。

一方で、多様なデザインがあふれる中で、何かひとつだけに意識を向けるのは問題があります。たとえば、椅子をデザインするときも、テーブルやその空間、街づくりなどが連関してひとつの世界をつくり上げて...

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