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データで読み解く企業ブランディングの未来

オフィスと働き方はパーパス表現として発信

Supported by 電通PRコンサルティング

企業の広報戦略・経営戦略をコンサルティングするプロが企業ブランディングのこれからをひも解きます。

今回のポイント
①オフィスと働き方は社外に発信できるツールになる
②オフィスと働き方はパーパスの表現の一つ
③取材を獲得したいならホットトピックスを意識

新型コロナウイルスの流行で、会社員は働き方やモチベーション、会社への帰属意識などが変化し、企業もオフィスのあり方と従業員の働き方の柔軟性を見直してきました。その「オフィス」と「働き方」の見直しが、企業のパーパスを社内外に発信するツールにもなることはご存知でしょうか。

社外にも発信できる

コロナ禍以前は、全員出社が習慣であり、あえて明示しなくてもなんとなく会社の示す方向性が理解できていたという人も多いでしょう。現在はリモートワークが浸透し、それらができなくなっている企業も多いのが実情です。

当社の社内シンクタンクである「企業広報戦略研究所」の調査によると、自社のパーパスと自身のパーパスが合致することで、所属する組織へのエンゲージメントが高まるというデータがあります。それをかなえるためには、社内と社外のステークホルダーに向けたコミュニケーションを互いにうまく連携・循環させることで相乗効果を生み、効果がより高まることが分かっています。

しかし、社外にパーパスを発信する際のネタが、経営トップからの発信以外に見当たらないと考えている人も多いのではないでしょうか。実はそこに「オフィス」と「働き方」が使えるのです。

関連性をもって報道される

では、どのように使えるのかという前に、そもそも「オフィス」と「働き方」に報道の点で関連性はあるのか見ていきたいと思います。この2つのキーワードを用いて、コロナ禍前の2019年から2022年上期までの期間で、テレビ・新聞・雑誌・ウェブメディアでの報道件数と関連性を分析します(図)

図 テレビ、中央紙、ビジネス誌、ウェブメディアにおける「オフィス」および「働き方」の報道件数の変化

「オフィス」×「働き方」報道件数合計:2019年502件、2020年954件、2021年785件、2022年上期293件
※当社統合コミュニケーション局 データストラテジー部にて調査

2019年は「オフィス」と「働き方」の相関性はあまり見えず、基本的に別々で報道されていました。しかし、2020年になると「オフィス」と「働き方」が共に語られる報道件数は、前年の502件→954件と約1.9倍に増加。2021年になるとテレワークやオフィス環境の変化が落ち着いた影響か、報道件数としてはやや減少していますが、2021年、2022年ともに近しい山型を形成しており、コロナ禍を経て「オフィス」と「働き方」は関連性を持って報道されているのが分かります。

パーパス発信のツールになる

では実際に、「オフィス」と「働き方」はパーパスを発信するツールになるのか、事例を交えて見ていきます。

オフィス:IT企業のサイボウズでは、ニーズに合わせた様々なワークスペースを用意しており、イスラム教のメッカの方角が示された部屋もあるなど、柔軟なオフィスを用意しています。同社は、「チームワークあふれる社会を創る」をパーパスとしており、「100人いたら100通りの働き方があってよい」と考え、従業員が望む働き方が実現できるようなオフィスづくりをしています。

働き方:フリマアプリを運営するメルカリは、パフォーマンス・バリューの発揮が最も高まるワークスタイルを従業員が自由に選択できる制度「YOUR CHOICE」を、2021年9月に始めました。同社はパーパスに当たるミッションを「新たな価値を生みだす世界的なマーケットプレイスを創る」と定義づけており、それに紐付く3つのバリューに則した行動指針を規定しています。「YOUR CHOICE」もこの考えに則るものとして発信しています。

これらが示すのは、その企業が従業員とともにどのような企業でありたいかという企業側の意思のあらわれであり、それは自社のパーパスにもつながるということを示しています。また社外に対しても、その企業が何を重視し、どのような人材を求めているのかというメッセージの発信にもなります。

さらに言えば、これが取材機会の一つにもなるのが今回お伝えしたいポイントです。例えば、点在していたオフィスを本社に集約するというオフィスの移転。IR的な意味合いだけで発信するのではなく、自社のパーパスと絡めて発信し、パーパスが特に体現されているオフィスや新しく導入した働き方をオープンにすれば、取材機会の一つになります。

より取材獲得に注力したいと考えるのであれば、「コミュニケーション不足の解消」と「個人の生き方の尊重」を体現している施設や制度を押さえておきましょう。オフィスや働き方関連の報道のトピックスを分析すると、この2つのいずれか、または両方が取り上げられていることが多く、現在の2大トピックスと考えられるためです。

大規模なオフィス移転や制度改革ではなくても、例えば、サントリーが展開する「社長のおごり自販機」の導入事例は現在も報道されています。社員証を2人でかざすと無料のドリンクが出てくるという自販機は、社内コミュニケーションの活性化に直結しているのでしょう。パーパスの社外発信を検討している場合は、まずは自社のオフィスや働き方の中で、ホットトピックスに当てはまる仕組みがないか探すことから考えても良さそうです。

* https://www.suntory.co.jp/softdrink/jihanki/ogori

電通PRコンサルティング
第2PRソリューション局 シニアコンサルタント
森 佑奈(もり・ゆうな)

「PR=企業・団体が受発信するすべてのコミュニケーション」と捉えるPRコンサルタント、プロデューサー。嗜好品のマーケティングコミュニケーションから、ジェンダーを含む社会課題のPRまで、幅広く担当。

企業広報戦略研究所(2013年設立)は、経営や広報の専門家と連携して、企業の広報戦略・体制などについて調査・分析などを行う電通PRコンサルティング内の研究組織。https://www.dentsuprc.co.jp/csi/

CASE

クリエイティブの力でオフィスでのパーパス浸透を図る

サイバーエージェントでは、パーパスを社員のものにするために、クリエイティブの力を使ってパーパスを浸透させるための施策をオフィスでも展開しています。例えば、エントランスに大型サイネージを掲出したり、オリジナルのイラストを用いてパーパスを視覚化した紙コップを用意したり、執務スペースに入退出するときにビジョンとパーパスが目に入るようにしています。

特に大型サイネージは、掲げるだけではなくリアルタイムな情報に応じて変化する演出を取り入れ、「つい見てしまう」仕掛けを施しています。来客があれば外部の方も必ずサイネージに映るパーパスを目にしますし、こうした一つひとつの施策の積み重ねがカルチャーの醸成やブランディングにつながると考えています。このようなユニークな取り組みをきっかけに、取材を受けたこともあります。

(サイバーエージェント/全社広報室/岩田梨沙氏)

オフィス内の大型サイネージとパーパスを視覚化した紙コップ

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