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ウェブリスク24時

値上げ時の広報準備

鶴野充茂(ビーンスター 代表取締役)

ブログや掲示板、ソーシャルメディアを起点とする炎上やトラブルへの対応について事例から学びます。

イラスト/たむらかずみ

値上げ時の広報準備
山崎製パンは1月出荷分から薄皮シリーズの内容量を減らした。これに対しネットでは、重量が減少していないなどという情報と、それを受けての好意的な見方が拡散した。

小売、外食をはじめとする多くの業界は、原材料費の高騰などで値上げを検討せざるを得ない状況に追い込まれている。頭を悩ませるのは、「いつ」「どのように」値上げするのか。山崎製パンでは、昨年末に個数変更を発表。しかしそれが注目されたきっかけはネットユーザーの投稿だった。

5個入りの商品と4個入りの商品を「数は減ってるけど量は同じと思われる」「カロリーで見ると減ってる」と写真とともに比較したTwitterの投稿が拡散したのだ。ネット上では、どう重量を増やしたかの推測やコストカットの方法など企業努力に目を向けるものも見られたが、話題の中心は重さがほぼ変わらないことについてだった。

反応に見る個数と重さの意味

日常的に値上げが報じられる昨今、企業はどう値上げを感じにくくするか、目立ちにくくするかに知恵を絞る。一方消費者は、実質的値上げを「隠そうとする」姿勢をステルス値上げなどと呼び、否定的に見る。そんな風潮からか、今回のように以前の商品や、他社の商品と見比べたりするようなネット記事やSNS投稿が多く見られるようになっている。

企業とネットユーザーの感覚の違いが、ネット上ではたびたび露わになる。例えば食品メーカーの場合、価格改定で「味の改善」を新たな価値として訴えようとすることが多い。ところがそのような声が広がることは少ない。味の変化はネット上で反響を得にくいためだ。写真で分かりやすく比較をまとめ、反応を期待して投稿するネットユーザーにとっては、「味」は伝えづらく、反応も得にくい。数や量の変化の方が伝えやすく、反応も得やすいのだ。

企業姿勢への理解をめざせ

何もSNSの拡散だけに注目すべしなどというつもりは毛頭ない。質的改善ももちろん重要だ。ただし広報としては、企業努力を示す「伝達可能な情報」を準備しておきたい。例えば、ファミリーマートは昨年末にファミチキの値上げをした。年内2回目の値上げだったが、「クリスマス後に」と報道されたことで、「クリスマスが終わるまで値上げを待ってくれる」と好意的に受け止める声がネット上で広がっていた。値上げ時期に意味を持たせる情報が反応にも影響を与えたと考えられる。

うまい棒では、1979年の発売以来42年間で初めての値上げであるという情報が、天丼てんやの昨年2度目の値上げでは、2018年の値上げでは2年後に値下げをしたことと「可能な限りワンコインを続けたい」という企業姿勢が伝わり、いずれもまだ十分に安いという声が感謝の声とともに多く見られた。餃子の王将は、値上げメニューの価格情報に加えてレシピの改良点の情報を一緒にまとめてHP上で見られるようにしている。こうした企業姿勢の表れる発信を模索することもまた広報の重要な役割であるだろう。価格改定時に果たせる広報の役割は大きい。

社会構想大学院大学 客員教授 ビーンスター 代表取締役
鶴野充茂(つるの・みつしげ)

社会構想大学院大学客員教授。日本広報学会 常任理事。米コロンビア大学院(国際広報)卒。国連機関、ソニーなどでの広報経験を経て独立、ビーンスターを設立。中小企業から国会までを舞台に幅広くコミュニケーションのプロジェクトに取り組む。著書はシリーズ60万部のベストセラー『頭のいい説明「すぐできる」コツ』(三笠書房)など多数。個人の公式サイトはhttp://tsuruno.net/

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