広告マーケティングの専門メディア

           

経済学の視点

行動経済学が苦戦する2割の壁

依田高典氏(京都大学大学院)

現状維持バイアスによる重い腰を上げさせるには?

人間の行動を変容させるのは容易ではない。それはなぜかというと、人間の心には、容易に現状を変えようとしない「現状維持バイアス」が備わっており、明らかに自分や社会の利得になるような選択肢が提示されても、なかなか重い腰を上げようとしないからである。

例を挙げて考えてみよう。自分が脳死した時に、病気で必要とする方へ、臓器移植する同意について、強い反対意見を持つ人は少ない。しかし、自発的任意の「オプトイン方式」を採用する国では、同意率が2割以下に留まる。他方で、自分の意志で離脱を表明しない限り、原則同意とみなす「オプトアウト方式」を採用する国では、同意率が9割を超える。

このようなオプトイン方式とオプトアウト方式の同意率の大きな差は、変動型電気料金の加入率や個人型確定拠出年金の申込率でも、広く観察される。私はこれを「オプトイン2割の壁」と呼ぶ。

私たちは、2011年3月11日の東日本大震災後の電力危機を受けて、節電を促すために、電気料金を発電費用に合わせる変動型電気料金の普及に取り組んだ。この時、変動型電気料金を導入すると、平均して電力消費量の2割がカットされた。

また、2014年夏期に、経済産業省と東京電力等と協力して取り組んだ横浜市の...

あと60%

この記事は有料会員限定です。購読お申込みで続きをお読みいただけます。

お得なセットプランへの申込みはこちら

経済学の視点 の記事一覧

行動経済学が苦戦する2割の壁(この記事です)
行動経済学が教えるナッジの効き目
行動経済学が薦めるナッジの処方箋
行動経済学者を悩ませる2つのバイアス
行動経済学が解き明かすバイアスの罠
何が満足をもたらすのか
宣伝会議Topへ戻る

無料で読める「本日の記事」を
メールでお届けします。

メールマガジンに登録する