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危機管理と広報対応

なぜ、あの謝罪会見は炎上したのか 会見の質を決める3要素とは

浅見隆行

深刻な事件・事故発生時は、緊急記者会見での謝罪や状況説明が求められる。その対応を誤ると、さらなる批判、不安を招くことに。2022年批判が集まった会見事例をもとに危機管理広報の基本を解説する。

2022年も危機管理広報を行う企業が相次ぎましたが、多くは自社にとって危機的状況下であることを認識した上で、迅速に謝罪する、丁寧に事実や原因を説明するなどしていました。

一方、危機的状況であることを理解できずに行われた広報も散見されました。知床遊覧船が沈没事故を起こした後の運営会社トップによる記者会見、送迎バスに幼児を置き去りにして死亡させる事故を起こした後の幼稚園理事長兼園長らによる記者会見、全市民の個人情報が記録されたUSBメモリーを紛失したことが明らかになった直後に行った尼崎市担当者らによる緊急会見の3件が代表例です。

火に油を注いだ会見

知床遊覧船事故と幼稚園の送迎バス置き去り事故は死者まで出ている重大事故であるにもかかわらず、会見に出席したトップの言動からは緊張感や責任感が感じられなかったために、企業の信用をより低下させてしまったケースと言えるでしょう。これに対し尼崎市の紛失事故は危機的状況であることを認識して緊急会見まで行いましたが、セキュリティのために掛けていたパスワードの桁数などまで説明してしまったために、市民の不安をより増大させてしまったケースです。この3件を題材に、危機管理広報の基本を今一度解説したいと思います。

知床遊覧船事故

北海道・知床沖で観光船が沈没。乗客乗員26名のうち20名死亡、6名行方不明。事故から5日目に運航会社の社長が会見を行い「事務所の無線アンテナが壊れていることは把握していた」などと話し、ずさんな管理体制が発覚した。

知床遊覧船事故は、記者会見が行われた時点で、メディアとSNSのいずれも炎上している状況でした。死者の発生が最大の原因ですが、事故発生後の企業側の対応の遅さ、拙さが火に油を注ぐ結果となりました。

事故は4月23日に発生し、桂田精一社長が記者会見したのは4月27日。その間に、荒天でも無理に出航していたこと、事務所のアンテナが破損していて遊覧船との通信に障害があったことなど、運営会社に事故発生の要因があることを示す事実が次々報道されていました。にもかかわらず、社長が表に出てこなかったため、乗客やその遺族・家族への誠意が見られない、当事者なのに逃げていると批判が集まったのです。

信用回復が目的のはずが⋯

死亡事故など重大事故が発生したときには企業のトップがすぐに表に出てきて謝罪することなしに、事態を沈静化させる方法はありません。トップというのは、株式会社であれば代表取締役のことです。法律上、企業を代表して業務を執行する役割が与えられています。重大事故が発生したときには、企業を代表して社外に情報を広く知らしめる、すなわち危機管理広報をすることがトップの役割であり責任なのです。表に出てこないトップは、その役割と責任を放棄して逃げているとの印象しか与えません。

事故発生だけでも社外からの信用は低下しているのに、企業のトップが逃げていれば、さらなる信用低下を招くだけです。これでは危機管理が成功するわけがありません。

なお知床遊覧船事故では、事故から半年が経過した10月時点でも、社長から遺族に個別の謝罪が行われていないことも報じられ、信用低下に拍車をかけていると言ってもいいでしょう。

危機管理広報を行う目的は、危機によって低下した企業の信頼・信用を回復させることです。これは取締役が負っている善管注意義務(善良な管理者の注意義務)に基づくものです。

取締役の義務

取締役は、株主から会社の経営判断を委任され、委任された者として「企業価値の最大化」を実現していかなければならない義務を負っています。「企業価値の最大化」には売上・利益の拡充はもちろんですが、企業の信頼・信用・ブランド価値の向上や、社会的責任(CSR)を果たすことも含まれます。重大事故という企業の信頼・信用を低下させる事態が起きているのに危機管理広報をしないのは、企業価値の最大化に反する対応なので善管注意義務を果たしていないことになるのです。

過去には、「自ら積極的には公表しない」ことを決めた取締役らに対して、「成り行き任せ」と評して「経営判断に値しない」とし法的責任(損害賠償責任)を認めた裁判例もあるほどです。それほど危機管理広報は重要であるということは、広報担当者だけではなく取締役にも理解していただきたいです。

会見の質を決める3要素

危機管理広報としての記者会見を行ったとしても、質が伴っていなければ、信用の回復という目的を達成することはできません。質というのは、大きく分けると、❶内容の充実度、❷態度の誠実さ、❸広報テクニックに分類できるように思います。

広報担当者は、往々にして、質疑応答のかわし方や打ち切り方など広報テクニックばかりを...

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