クリエイターのオフィスを訪ねると、よく見かける、大きな本棚。忙しい仕事の合間に、クリエイターたちはどんな本を読んで、どのように仕事に活かしているのか。今回は、神奈川県の真鶴（まなづる）町で出版社「真鶴出版」を営む川口瞬さんです。仕事や人生に影響を受けた本について聞きました。
『「谷根千」の冒険』
森まゆみ（著）
（ちくま文庫）
真鶴出版を始める前、漠然と「普通の人」に焦点を当てた雑誌をつくりたいと考えていた。そんなときこの本を読んで、30年前に同じことを考え、すでに実践していた人たちがいることを知り、驚いたのを今でも覚えている。
この本には、今や一般名称となった「谷根千」という名前を生み出した、ローカルメディアの祖である地域雑誌『谷中・根津・千駄木』ができるまで、そしてそのつくり方が掲載されている。
著者・森まゆみさんをはじめとする母4人は、子育てをしながら手探りで雑誌づくりを始める。よくあるタウン誌と一味も二味も違うのは、最初からたしかな信念を持っていたことだ。たとえば、「有名人に頼らない」「宣伝費はもらわない」「悪口は書かない」などなど。今読んでもローカルメディアをつくる上で肝に銘じておきたいことばかりである。
さらには、『谷根千』の目的が「できあがった成果としての雑誌でなく、取材したり作ったりする過程だ」ともいう。取材時の町の人とのコミュニケーション自体が楽しみであり、目的なのだ。これがこの活動を25年続けられた秘訣であろうことは、この本を最初に読んだときはわからなかった。
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