デジタル化の波の中においては、例えばBtoBtoCモデルのメーカーであっても、顧客と直接つながり、データを通じて顧客を理解することができるようになっています。それでは、こうしたデータをもとに顧客起点の全体最適の体験シナリオはどうつくればよいのでしょうか。またマーケターはデータにどう向き合えばよいのでしょうか。連載第3回は、サイカの平尾喜昭氏と花王の廣澤祐氏が議論しました。
個人に最適化しても全体最適は実現しない?
──廣澤さんは2021年1月から花王のDX戦略推進センターでコンシューマープロダクツ事業部門横断のDX推進役を担われています。
廣澤:当社には以前、デジタルマーケティングセンター(DMC)というデジタル関連の機能を集約させた組織がありました。機能を集約することでデジタル分野の連携は円滑になるのですが、その一方でDMC以外の部門はデジタルが他人事になってしまうという現象が起きました。
社員一人ひとりがデジタルへの関心を高めるためにもDMCは解散したのですが、すると今度は知識が様々な部門に分散し個別に活動してしまうため実態が把握しにくいという課題が生まれ、再度、私が所属しているDX戦略推進センターが立ち上がりました。お客さまとの接点、技術、データの領域を全社で統合していこうとする方針です。
以前のセンターと大きく異なるのが、ECとCRMの重要性が増してきている点。実は私は2018年当時のセミナーで「メーカーに1st Partyデータは必要ない」といった趣旨の発言をしたことがありました。当時はメーカーがデータを保有したところで、顧客への価値提案の幅に対して、個人情報を保有することのリスクの方が大きいと考えたからです。
しかし、昨今はメーカーにおいてもECとCRMの重要性が増す中で、データも活用してお客さまとのつながり方を設計する必要が生まれています。こうした流れも踏まえて、当社でも2021年にDXという名目で現在の組織設立に至っています。
平尾:1st Partyデータの取得に際しては、世界的なプライバシー保護意識の高まりで3rd Partyデータの利活用が難しくなったことも背景にありますよね。加えて、データ活用に際しても個人を捕捉していくような分析ではなく、推計が重用される流れにあります。米国では人をログで追うMTA(マルチタッチアトリビューション)が盛り上がった時期もありましたが、今は再びMMMに回帰していると感じます。個人に最適化したところで、全体最適が実現できなかった...