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デジタルだけでブランドはつくれるか?

デジタル時代のブランド構築 つながる価値をいかにつくり上げるか?

澁谷 覚氏(早稲田大学)

社会の隅々までデジタルが浸透した今日、企業はどのようにブランドを構築していけばよいのだろうか。ブランドの成長プロセスを「立ち上げ期」と「拡大期」の2つに大きく分け、それぞれの時期におけるブランド構築について、早稲田大学の澁谷覚教授が解説する。

ブランドの立ち上げ期 ポジショニングの重要性

これまでのマーケティングの教科書等で必ず言及されてきた、いわゆるSTP(セグメンテーション、ターゲティング、ポジショニング)がもっとも重要な役割を果たすのは、ブランドの立ち上げ期である。

この時期には、一般に経営資源が潤沢ではない中で、何らかのイノベーションや画期的アイデアによって、これまでにないユニークな方法で、特定セグメントの消費者を徹底的に満足させる。そしてこれらの消費者にとって、他とは全く異なる、なくてはならないブランドとして認知され、その支持を受けながら立ち上がっていく【図1】

図1 ポジショニング
久保田・澁谷・須永(2013), p.175, 図6-3.

このような状態を、一般に「ポジショニングされた」状態という。ポジショニング、およびその前提であるセグメンテーションとターゲティングの重要性は、デジタル環境下でも変わることはない。多くのD2Cブランドは、独自のコンセプトや世界観によって特定セグメントの消費者に熱心に支持され、立ち上がっていく。

ただしデジタル環境下では、【図2】にみるように、コア顧客とブランドの関わりをサポートするさまざまなツールや概念がアップデートされている。これらを活用するひとつに、「SNSミックス」という考え方がある。

図2 SNSミックス


ブログは、コアなファンに向けてブランドの理念をじっくりと説明することに適している。例えば、もともと美容関連のブログからスタートしたニューヨーク発のコスメD2CブランドGlossierは、ブログを用いてブランドの顧客基盤を形成した典型例である

※ただしブログ(“Into the Gloss”)の読者層が30代〜40代の女性が中心であったのに対して、Glossierブランドの中心顧客は10代手前から10代の少女であった(Avery, 2019)。

ライブ配信は、コア顧客ともっとも濃くつながるツールのひとつである。配信時刻に視聴する必要があり、早送りもできないライブ配信は、配信時間中そのブランドに接し続ける体験をもたらすため、コア顧客ともっとも濃くつながることが可能になる。

例えば、20代〜30代の小柄な女性をターゲットとするアパレルブランドCOHINAは、ブランド設立から400日以上欠かさず毎日Instagramライブを配信し、ライブ配信を通じてコアな顧客基盤を形成していった。

ブランドの「つながる価値」消費者間のつながりも進化

このように、ブランドと顧客が、心理的・物理的につながっていることによってもたらされる価値を奥谷・岩井(2022)は、「つながっている価値」と表現している【図3】

図3 ブランドの「つながっている価値」

奥谷・岩井(2022), p.45.

例えばオンラインフィットネスサービスPelotonのユーザーは、自宅に置いたバイクに取り付けられたディスプレイを通じて、スタジオにいるカリスマ・インストラクターとリアルタイムに繋がり、直接指導を受けながらバイクをこぐ。これがPelotonのユーザーにとっての、まさにデジタルがもたらした「つながる価値」である。

そしてデジタル環境がもたらした、アナログ時代との最も顕著な違いのひとつが、インタレスト・グラフと呼ばれる消費者間のつながりである。立ち上がったばかりのブランドの熱心なファンは、同じブランドに強い関心を共有する多くのファンとデジタル空間で結びつき、相互に影響し合う。同じ対象についての興味・関心を共有する消費者間の結びつきを、インタレスト・グラフと呼ぶ。

したがって同じブランドのファン同士はインタレスト・グラフで結びついている。インタレスト・グラフは、主にデジタル空間に存在する。なぜなら、立ち上がったばかりでまだ知名度が低いブランドのファンを日常生活の中で見つけることはむずかしく、ファン仲間は同好の士が集まるネット上の空間で見つかるからである。このようにインタレスト・グラフは、デジタル環境下で初めて大きく実現した消費者間の関係なのである。

立ち上がったばかりのブランドにおいて、このようなファン同士のつながりはきわめて重要である。初期のGlossierは、ファン同士の結びつきが非常に強く、「カルトブランド」と呼ばれていた(Avery, 2019)。このような結びつきは、先に述べたように主にバーチャル空間内で実現しているから、立ち上げ直後のブランドにとっては、ファンのためのインタレスト・グラフ空間をオンライン上に用意することはきわめて重要な戦略である。

ブランドの拡大期に重要なポジショニング<アクセシビリティ

コアなファンに支えられつつ立ち上がったブランドの多くは、成長プロセスの半ばで、ビジネスを転換する局面を迎える。立ち上げ期にブランドを...

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