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国語学の視点

声を張らないCM

金水 敏氏(大阪大学)

気持ちが吸い寄せられる淡々と流れていく「家族」の会話

CMというと、派手な映像、ビートの効いた音楽等でショーアップし、短時間で視聴者の視点を誘導しようとする傾向にある。出演者の演技も自ずから力のこもったものになりがちで、張った声で商品名を連呼するのが通常である。そういった派手目のCMが主流であるとすると、逆に静かな音楽、抑制の効いた演技で淡々と流れるCMにふっと気持ちが吸い寄せられる現象も起こってくる。

そういった静かな音、静かな演技で構成されるCMには、「家族」を扱ったものが多いことに気がついた。

ひとつ目の例は、日本生命の「幸せを長く」篇。弁当屋を営む一家の母(中村優子)がガンで入院したが、幸い早期発見・治療によって退院することになり、父は店を臨時休業し、娘(長澤樹)・息子(石澤柊斗)と共に母を迎えに行く。母と娘、父と息子が似た顔立ち(父と息子は服装と眼鏡まで似ている)というところが、さりげなく家族感を演出している。

病院から出てくる母に駆け寄ってハグする娘は涙ぐんでいる。(娘)「お母さんは元気だって、いつも勝手に思ってた」(母)「お母さんも勝手に思ってた」(娘)「わたし何でも手伝うから」(母)「そのことば、録音しておこうかなー」。そこに、息子が鼻をすする音。(娘、振り返って)「泣いてる?」(息子、言われて慌てて)...

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