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青山デザイン会議

新しい食の体験をデザインする

赤松陽子、新井将人、佐々木英之

ここ数年、フードテックが注目を集め、地球の気候変動や人口増加による食糧危機などさまざまな問題を解決するべく、代替肉や昆虫食といった新しいジャンルの「食」が生まれています。

今回の青山デザイン会議に集まってくれたのは、岡山を拠点として、「食と暮らしをつなげる」をテーマにホテルやスーパーマーケットの店舗開発、企業の商品開発などを手がけるフードディレクター・料理家の赤松陽子さん。

「昆虫食デザイナー」として、クラウドファンディングから生まれた「コオロギ餃子」など、さまざまな商品・プロジェクトに関わる新井将人さん。そして「NEXTカルビ」「NEXTハラミ」をはじめ代替肉の研究開発を行う、日本発のフードテックベンチャー「ネクストミーツ」の代表・佐々木英之さん。新しい食のトレンドから、それらを定着させる体験とデザイン、二極化する食の未来まで。暮らしや環境、グラフィック、テクノロジーなど、幅広い視点で語っていただきました。

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環境か健康か、それともおいしさか

赤松:岡山を拠点に、全国のホテルや旅館のメニュー構成や会場コーディネート、スーパーの販売促進のお手伝いなどをしています。最近は自分の料理ももう少しやっていきたいということで、フードディレクターと料理家という肩書で活動しています。

新井:私は2021年から「昆虫食デザイナー」としての活動をスタートしました。クラウドファンディングから生まれた「コオロギ餃子」のパッケージや、北九州市の魚町銀天街に昆虫食の自動販売機を置くプロジェクトなど、デザイン開発を中心に昆虫食の分野に関わっています。

佐々木:2年ほど前に、「ネクストミーツ」という代替肉のブランドを立ち上げました。僕自身、食品業界の経験はないのですが、環境課題の解決や社会貢献につながるビジネスに関心があって。まだ日本には専門メーカーがなかったので、世界を目指すという想いで取り組んでいます。

赤松:佐々木さんの仕事って最先端だし、20年とか30年先の未来をつくっていく仕事。私はどちらかというと主婦目線で、代替肉や昆虫食とは遠いところにいるのですが、食糧危機や環境問題は迫ってきているので、これを機会に勉強できたらと。

佐々木:まさに赤松さんのような方が身近に感じられないと、世の中は大きく変わらないなと考えています。「フードテック」というくくりでいうと、技術的には確かに最先端かもしれませんが、消費者にとってはそれはあまり関係なくて、重要なのは単純においしいかどうかだと思うので。

新井:NEXTカルビとNEXTハラミを食べたのですが、噛んだときの肉の繊維感や肉汁が再現されていることに衝撃を受けて。普及すれば、環境問題の解決にもつながるし、未来のある分野だなと感じました。

佐々木:ありがとうございます!

新井:私は長野県出身で、小さい頃から昆虫を食べてきたんです。大学でその話をしたところ、変わり者扱いをされたことにカルチャーショックを受けて、授業で昆虫食のリブランディングに取り組んだのをきっかけに興味を持ちました。実際、皆さんは食べたことってあります?

赤松:ありますあります。イナゴなんてパリパリしてて香ばしくて、まずかったとか悪いイメージはないですね。

佐々木:コオロギパウダーを使ったお菓子をもらって食べたこともありますが、自分からとなると......。買える場所が限られているし、値段もそれなりにしますよね。

新井:需要がないから、どうしても生産コストが上がってしまうんです。コオロギパウダーにしても、1キロの値段が松阪牛と同じぐらい、なんて話もあるほど。ちなみに、ネクストミーツのお客さんにはどういう方が多いんですか?

佐々木:ネット販売では60〜70%ぐらいが女性で、健康に気をつかっている30〜40代の方が多いですね。

新井:昆虫食も、高タンパクでヘルシー、健康食としても注目されていることもあって、女性が多いという話を聞きました。まだ罰ゲームのような、エンタメとして使われることも多いですけど。

赤松:健康とか美容のためなら、ちょっと怖がりつつも挑戦する。それはやっぱり、女の人なんでしょうね(笑)。

佐々木:とはいえ僕らは健康食品メーカーではないので、我慢して食べるのではなく、おいしいから選んでほしい。しかも値段が手頃なら、買うだろうなと。ただ「代替肉」というと偽物っぽいイメージもありますし、日本で一般的な大豆ミートも、おいしそうに感じないでしょう?

赤松:私も仕事で使ったことはありますが、「代替肉」と言われると仰々しい感じがしますよね。ネーミングはもちろん、主婦は自分にとって得だと感じると財布のひもが緩むので、たとえばレシピや保存方法がわかるといいかもしれません。

    YOKO AKAMATSU’S WORKS

      

    ベッセルインなんば by ベッセルホテルズ 朝食会場ブランディング

    両備ホールディングス/両備ストアカンパニー
    お惣菜ブランディング、店舗リニューアル

    レフ松山市駅 by ベッセルホテルズ 朝食会場ブランディング

    『食と暮らしを豊かにするデザイン』(ビー・エヌ・エヌ)

新しい食を定着させる「体験」とは?

赤松:コロナで外食が減り「中食」が増えて、今はスーパーや百貨店もお惣菜にすごく力を入れています。主婦の感覚的にも、ちょっと高価でもおいしいものや体にいいものを食べたいという人、自分の食や体も含めて、生き方や環境について立ち止まって考える人が増えている気がします。

新井:「今日はちょっといい食材を買おう」というときに、代替肉や昆虫食が選択肢になるといいですよね。

佐々木:お惣菜もそうですが、一番やってみたいのはスーパーの試食。今はコロナで消えてしまっていますけれど。

赤松:絶対いいですよ!焼きたての匂いと、おばちゃんが手渡ししてくれるあの雰囲気は、みんな大好きなので。販売促進をやっていて感じるのは、特に主婦の人たちって、すごくシビアだということ。ただ一度よさが伝わると、勝手に広めてくれるパワーを持っている。

佐々木:おいしい体験は、次につながりますよね。お店で食べるのもそうだし、家で簡単に食べられるのも大事。

新井:私も昔、祖父の家で蜂の巣をつついて落として、バター醤油で炒めて食べて。そのおいしいという体験があったからこそ、今につながっていると感じます。

赤松:体験は本当に大事ですよね。ジビエもそうですが、おいしくないものを食べてしまうと、もう食べないとなってしまう。自分で調理するのはなかなか難しいから、最初はレストランで、シェフにお任せするのがいいかもしれません。

佐々木:うちのお肉は、「焼肉ライク」さんのほか、銀座の中華料理店「過門香」さん、お台場の日本科学未来館にある「Miraikan Kitchen」やパレスホテル、グランドハイアットなどでも食べられます。

新井:今は、コオロギラーメンが人気の「ANTCICADA(アントシカダ)」のように、すごくおいしい昆虫食のお店もありますから、ぜひ行ってほしいですね!

佐々木:一方で、知らないで食べたらおいしかったというのも、ひとつの体験だと思うんです。料理を全部食べたら、お皿の底に「全部植物性です」と書いてあるとか。とりあえず体験してもらうという意味では、学食とか社食、給食もいいですね。

新井:SDGsとつなげれば食育にもなるし。

佐々木:はい。子どもの頃にそういう体験をさせておくと、10年後、15年後が楽しみだなと。実際この間、小学校で授業をしたのですが、僕が話す前から、日本には年間600万トンのフードロスがあるというのを知っているんです。

赤松:今は子どものほうがよく知っているので、実は大人にこそ食育が必要。環境問題って自分には関係ないと思いがちなので、親子で体験できるといいですね。

佐々木:僕らも苦労していますが、昆虫食の場合は、導入部分のハードルがより高いのかなと感じて。食糧問題の解決とかヘルシーということ以外に、昆虫食ならではのメリットってあるんですか?

新井:コオロギの香ばしさを活かしたレシピみたいなものはありますけど......。個人的には...

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