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データで読み解く企業ブランディングの未来

グローバルリスクの把握なくして企業の成長なし

Supported by 企業広報戦略研究所

企業の広報戦略・経営戦略を分析するプロが、データドリブンな企業ブランディングのこれからをひも解きます

今回のポイント
① コロナと国際紛争でリスク拡大、より深刻・複雑化
② リスクは短期と中長期の両方の視点で見る
③ 海外展開ない企業もグローバル視点のアンテナを

コロナの収束がまだ見えない中、我々はまた新たな脅威に直面している。ロシアのウクライナ侵攻は、当事国の問題だけでなく、国際秩序を崩壊させ、世界経済をも脅かし、人々の生活や企業の事業活動においても撤退や再編など多大な影響を与えている。一方、国際情勢による変化以外にも以前にも増して気候変動、異常気象など世界的規模で深刻なリスクが懸念されている。さらに2年以上続くコロナ感染拡大が今も多くの国々で社会経済を混乱させ、分断を引き起こし、問題はより深刻、複雑化している。

毎年1月にグローバルリスクを見る上で企業のリスク担当者が必ず注目している2つのリスクの指標がある。“ダボス会議”で有名な世界経済フォーラムが発表する「グローバルリスク報告書」と、もうひとつ、米国調査会社ユーラシア・グループが発表する「世界の10大リスク」である。この2つの指標から企業が直面するリスクを読み解き考察していく。

リスクは短期、中長期視点

世界経済フォーラムが発表する「グローバルリスク報告書」は世界の企業や国、教育機関、NGOなどの約1000人の有識者に戦略パートナー企業であるマーシュ・マクレナンやチューリッヒらと共に調査、ヒアリングを行い、世界のリスクを挙げる。多様化するリスクはコロナによってさらに複合化しているため、2021年度よりリスクを見る視点も短期、中期、長期の視点を持つべきとしている。

我々の日常においても、出社せずともリモートで働けるテレワークの「新しい生活様式」が浸透すると、サイバー攻撃の対象は一気に拡大、また攻撃側も従来では考えられないほど巧妙に進化し、新たな脅威が一層高まっている。リスクは身近なところでも常に変化し動いており、個人の誤送信から企業のブランド価値棄損、経営危機に直面する場合もあり、もはや利便性とセキュリティは両立しないなどと言っていられる時代ではなくなったのだ。

「今後10年間のグローバルリスクトップ10」(図)には入らなかった「サイバーセキュリティ対策の失敗」「デジタル格差」リスクは、順位は低いものの、各国や民間企業が活発化させる宇宙空間の開発・活動にともなう政治や安全保障、経済、環境面でのリスクと同様に、長期的な視点で注視すべきだとしている。

図 今後10年間のグローバルリスクトップ10(2022)

出典:世界経済フォーラム発行「グローバルリスク報告書2022年版」(マーシュ ジャパン/マーシュ ブローカー ジャパンによる翻訳)

社会の分断と秩序の欠落

また、同報告書では気候変動対策の失敗、異常気象、生物多様性の喪失の他に、社会的結束の低下、生活の危機がリスクとして挙げられている。社会の分断や格差の拡大が、気候変動などの地球規模のリスクに対する協調を遅らせる可能性があり、広がる分断・格差を解消し最も深刻なリスクに団結して取り組むことが必要としている。

一部の国では、ワクチンの急速な普及やDXの成功でコロナ前に戻ろうとしているが、まだ多くの国ではワクチン接種率の低さや医療体制の逼迫、デジタル格差、労働市場の停滞により足踏み状態に陥るなど状況は異なっている。このような社会の分断が、国際社会が直面する「気候変動」「移民流入の管理」「サイバーリスク」への対応に必要な国際連携を困難にすると考えられる。

国際的に関心の高い気候変動に関しては、深刻な異常気象が世界的に起きていることを指摘しつつも、脱炭素社会・経済への移行には社会的な影響を考慮することが必要だと強調する。秩序なき移行は、国内や国家間の分断を深刻化させ、さまざまなリスクをさらに高めることになるだろう。

キャンセルカルチャーへの対応

もうひとつの指標として、国際政治学者イアン・ブレマー氏の率いるユーラシア・グループが毎年年明け早々に発表する「世界の10大リスク」がある。この報告書は特徴として地政学が挙げられることが多いが、企業行動として注目するべきは9位の「文化戦争に敗れる企業」である。今、企業や政府はSNSの巨大化により「キャンセルカルチャー」への対応が求められる。特に標的になった企業では不買運動などによって痛手を受けるケースが深刻だ。

消費者や従業員は、多国籍企業とそれを規制する政府に対して新たな要求を突きつける。彼らは何を求めているのか。彼らは、企業が「文化戦争」問題、具体的には職場の多様性、強制労働・児童労働、環境や人権に配慮したサプライチェーン、言論の自由などについて立場を明確にすることを求めている。それに対応すると、コンプライアンスの費用がかかりサプライチェーンの再構築が必要になるため、企業の負担が増える。ソーシャルメディアはますます強大化し、広く普及しており、「キャンセル(排除)」される脅威は、もはや対岸の火事ではない。

現在だけでなく、過去の発言や行動も炎上を引き起こすこともあるので企業はより注視していく必要がある。さらにコロナ禍では、コミュニケーションはより丁寧に行うことも求められるだろう。

境界はますますなくなっている

冒頭にも触れたが、まさにロシアの軍事侵攻はこれまでのグローバルスタンダードを崩壊させ、世界を震撼させた。このような国際紛争が環境に与える影響も計り知れない。不確実な時代が引き起こすリスクは、その規模が大きければ大きいほど、ボーダレス化し、海外展開していない企業も、もう他人事では済まされないだろう。

グローバルリスクへの備えが企業の守りにも攻めにも不可欠なものであり、企業価値向上へと繋がる。そのためにも広報は常にグローバル視点でアンテナをはりめぐらせておくことが重要である。最後に、一刻も早く世界に解決の道が示されることを願いたい。アラブ首長国連邦(UAE)で開催中のドバイ万博のウクライナ館では世界中の人々から多くのメッセージが添えられている。

(*本原稿は2022年3月22日時点で執筆しています)

ドバイ万博・ウクライナ館では壁一面にメッセージが溢れた。

写真提供:筆者

企業広報戦略研究所
上席研究員
電通PRコンサルティング
グローバルビジネス部
チーフ・コンサルタント
酒井美奈(さかい・みな)

放送局での国際および経済ニュースの番組制作などを経て、入社。国際広報戦略の立案、国際イベントでのメディア対応、サステナビリティ領域のコンサルタントも担当。電通Team SDGsコンサルタント。MBA(マンチェスタービジネススクール)。

企業広報戦略研究所(2013年設立)は、経営や広報の専門家と連携して、企業の広報戦略・体制などについて調査・分析などを行う電通PRコンサルティング内の研究組織。https://www.dentsuprc.co.jp/csi/

OPINION

多様化するリスクに中長期的視点で対応できる備えを

世界のリスクは常に動いており、かつ個々のリスクが互いに連関している。目の前のものだけでなく、中期と長期といった多角的に見る必要がある。事業におけるマーケットは常にグローバルを意識しなければならない中、企業にとっての最重要課題はいかにして事業を継続するかであり、そのためには自社を取り巻くリスクに加え、グローバルリスクのトレンドを常に把握し、それらのリスクへの備えを講じておくことが企業の担当者に求められる。

マーシュ ブローカー ジャパン
取締役会長
平賀 暁氏

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