コロナ禍により、リアルからデジタルへ。販売チャネルもコミュニケーションチャネルも大きく変化した。消費者との接点は変われども、人を動かすのはクリエイティビティ。そしてそのクリエイティビティの中核を担うのが「言葉」だ。販促における、売れる「言葉」の基本を向田 裕氏が解説する。
まず、この稿で解説するコピーの前提を整理しておきます。モノやサービスを直接消費者に販売する、つまり直販(ダイレクト・レスポンス)に特化したコピーライティングについてです。広告にはC・I(企業・ブランド広告など)のためのイメージコピーもありますが、それとはちょっと違います(図1)。イメージコピーが、多くの人に向けてメッセージを伝える“インパクト型”のコピーだとすれば、直販コピーは、個人に向けて購入のお願いをする“説得型”のコピーとでも言えるでしょうか。
今回はとくにボディコピーに主眼を置いて、商品を買ってもらうために、何をどんなふうに伝えれば、読み手の心を動かせるのか?を考えてみます。
「アイドマの法則」をおさらいしてみる。
少しでも広告を勉強した人ならば知る人も多いと思いますが、“消費”における人の心情プロセスを表す「AIDMA(アイドマ)」という指標があります。1920年代にアメリカの販売・広告について書かれた著作の中で発表されたもので、消費者が商品の存在を認識してから購入するまでの心理段階を、5つのステップで示した仮説です。
日本では、2004年に広告会社の電通などにより提唱された「AISAS(アイサス)」との比較などでも知られます(図2)。
出典はだいぶ古いのですが、商品コピーの基本的なプロットを考える上で、現在でも十分に通用するものです。ここでは、商品を『青汁』と仮定して、消費者心理のプロセスごとに、コピーで何をどうアプローチすれば良いのか?注意するべきポイントは何か?⋯⋯をまとめてみました。
まず、Attention(注意)。これはタイトルの仕事ですね。新聞や雑誌の記事などの有料コンテンツと違って、広告はかんたんに無視されてしまいます。そうならないように、目の前を通り過ぎようとしている人の注意を引く。相手が振り向いてくれるような“呼びかけ”が必要です。
例えば「野菜が足りない人、青汁あります!」⋯⋯これでも成立はしますが、少し弱い。「一日にこれだけの野菜が摂れれば大丈夫ですよ!」とした方が「えっ、どれだけ摂ればいいの?」と、“答え”が気になって、ひとまず中身を読んでみようと思わせるのではないでしょうか。
通りすがりの人に声をかけて、本文へ引きずり込む!これがタイトルのミッションです。なんだか嘘っぽい⋯⋯とか、難しそうだな⋯⋯と感じさせたら相手は食いついてくれません。もう少し詳しく知りたいな⋯と本文へ橋渡しするようなフレーズを考えます。
次の、Interest(興味)。ここからがボディコピーの役目です。タイトルに誘われて本文を読み始めたものの、「何だ、よくある内容だな⋯⋯」と思われた時点で読み飛ばされてしまいます。
ポイントは、読み手に「自分に関係のある情報」だと思わせることです。「あなたは、どれほど食生活にこだわっていますか?コレステロール値は大丈夫ですか?」⋯⋯などとすれば、もともと青汁に関心がなかった人も、あらためて自分の食生活を振り返って興味を膨らませるかもしれません。
本文の冒頭から「現代人の多くは野菜不足と言われており〜」などと一般論を書き出すケースをよく見かけますが、これではせっかく前のめりになりそうな相手の気持ちを冷めさせてしまいます。直販コピーは“一発勝負”ですから、最後まで読み手の興味を持続させなければなりません。退屈させないように、常に読み手に刺激(共感や気づき)を与える内容と言葉のチョイスが大切になってきます。
Desire(欲求)は、いよいよ本格的にその商品を欲しいと思わせる段階。コピーの中盤くらいでしょうか。この辺りから読み手は、本当に買うかどうかを悩み始めます。まだ半信半疑な点はありつつも、価格をチェックしながら自分なりに詳細を吟味するのです。
コピーでは、このタイミングで商品のベネフィットをしっかりと伝えます。「大麦若葉、明日葉、ケールにハチミツ。一包に◯◯gの食物繊維のほか、ビタミンとミネラルがたっぷり。悪玉コレステロールが心配な方へのトクホ!」といった感じで特長を訴えかけます。
商品コピーでもっとも大切な要素が、この“ベネフィット”だと言われます。直訳すると「利益」や「恩恵」といった意味で、つまり、その商品を買うとどんなメリットを享受できるのか?ということ。これがうまく伝われば商品は売れるし、伝わらなければ売れないというわけです。商品の一番のアピールポイントですから、ここがボディコピーの読ませどころのはずなのですが⋯⋯実はある問題が。それは後述します。
Memory(記憶)。コピーの後半戦です。ここまで読み進めてくれた人は、もう単なる読者ではなく“消費者”です。
商品の特長については...