理想の社会を実現するために「広報」がある 必要なのは発信による「社会デザイン」構想力

理想の社会を実現するために「広報」がある 必要なのは発信による「社会デザイン」構想力

情報の量と質が拡大・深化する時代、冷静さを失わず情報を精査し、活用するためには何が必要か。
広報・コミュニケーションのプロフェッショナルを育成する、社会構想大学院大学 広報・情報研究科の北島 純特任教授と、橋本純次専任講師が語り合った。
 

SNSで重層化する情報収集

橋本:広報の仕事のひとつに「情報収集」がありますが、その能力を高めるためにはどういった事柄に気を配ればよいのでしょうか。

北島:近年のネット社会の発達とグローバル化に伴い、情報の量と質が飛躍的に拡大・深化しました。広報には、この変化に対応した情報戦略が求められています。従来、企業が収集する情報は、マスメディアをはじめとするプロが発信する情報が中心でした。しかしグローバルなSNSの発展により、市民が発信した情報をダイレクトに受け取ることが当たり前になっています。
別の言葉でいうと、「プロのフィルターを通っていない生の情報」が飛び交っているわけです。情報の信憑性や隠された意図について見極める能力がこれまで以上に求められるといえます。

橋本:現在の情報環境ではSNSとマスコミュニケーションがまったく別々に存在しているわけではなく、相互に作用しながら「重層化」したメディア環境を構築しているとも言われます。だからこそ、情報の見極めが難しく、ともすれば感情的・扇動的な情報に流されてしまいがちな状況です。

北島:重要なのは「情報の真意を措定し、情報の含意を構想する」こと。様々な情報が飛び交うなかで、情報の受け手は発信者の「本当の狙い」を確かめることができないわけです。かといって「よく分からない」で済ますのではなく、その場で得られた材料をもとに、その「狙い」を考えていく。新しい情報が入ってきたらそれと照らし合わせて、考えた内容を不断に更新していくことが求められます。また、受け取った情報を単に消費するのではなく、その意味合いや活用方法を常に考えつつ、自らの情報発信に活かすことも重要です。こうした事柄に取り組むためには、特定の領域に偏らず、幅広い社会情報を収集し、処理し、評価するための専門的訓練を積むことが有効です。

これからのコンプライアンス

橋本:近年、グローバルな文脈において組織が遵守すべきコンプライアンスが日々更新されていますが、こうした実務と密接に関わる広報担当者はどのような点に注意すべきでしょうか。

北島:コンプライアンスはもともと「何らかの規範に従う」という意味を持っていて、これまでは「法令遵守」という訳語があてられてきましたが、近年では「社会的な要請に応える」という側面が強くなってきています。グローバル化の進展により、ひとつのビジネスにかかわる法令が複数の国にわたるようになったのみならず、必ずしも法令違反とは言えない事案であったとしても、社会的信頼を失墜するリスクがあります。そして、法令以上に、社会に受け入れられるか否か?の基準は常に変化しているものです。それゆえ、情報発信において常に社会的な目がどこに向けられているのかを理解する必要があります。社会的な動勢を見極める感度を高める必要があるわけですね。

橋本:そうした感度を高めるためには日常的にどのようなトレーニングが必要でしょうか。

北島:ひとつは「大量かつ良質な情報を摂取する」ことです。例えば各国の複数のメディアが提供する情報に目を通すことで、ひとつの事案に対して多様な評価が成り立ちうることを認識できると同時に、グローバル社会においてメインストリームとなっている考え方がいかなるものか知ることができます。こうした点は日本語のメディアだけではなかなか気づけません。次に大切なのは「情報を分析するための視座や枠組みを備える」ことです。論理(ロジック)に基づいて情報や言説の主張と論拠とエビデンスを区分けして考えていく訓練が有効です。そしてもうひとつが「自ら情報発信をする」ということです。情報がいかなる意図をもって発信されているか、ということに思いを至らせるためにも、自らの立場から社会に対して情報を発信してみるというのは非常に重要です。

学び直しの場が開かれた社会

橋本:社会人が学び直すことの意義や効果について、北島先生はどのように評価されていますか。

北島:例えばデンマークでは「リカレント教育」(社会人の学び直し)は一般的で、財政支援含め「国民が必要とするのであれば年齢にかかわらずいつでも教育が提供されるべき」という確信に基づく制度設計がなされています。
日本でも「世の中のいまの動き」をキャッチアップするためには、高卒時大卒時に教育を終えるのではなく、専門的・組織的な教育により知見を更新していくことが求められます。社会人が学び直すことは今後も一般的になっていくと思います。特に専門職大学院の教育は有効だと考えます。

橋本:広報・情報研究科では「広報のプロフェッショナル」を養成していますが、北島先生のお考えになる「広報のプロ」とはどのような人でしょうか。

北島:まずは情報の真意を措定し、その含意を構想しつつ、自ら情報を発信できる「情報のプロ」であることが求められます。それに加えて、そうした情報を発信したあとの波及効果、すなわち情報発信による「社会デザイン」を構想できる人材。企業でも自治体でも市民団体でも同様ですが、「理想とする社会を実現するために広報がある」という戦略的な考え方ができる人が広報のプロだと思います。

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