自治体経営における行政広報の課題 経営マインドと住民目線の獲得を

自治体経営における行政広報の課題 経営マインドと住民目線の獲得を

制約の多い行政広報。人口減少や歳入低下に悩まされる中、広報に課せられた課題とは?
広報のプロフェッショナルを育成する、社会構想大学院大学 広報・情報研究科の牧瀬 稔特任教授と、橋本純次専任講師が語り合った。
 

行政広報の現状と課題

橋本:自治体経営のなかで、広報やシティ・プロモーションの位置づけはどのように変化してきたのでしょうか。

牧瀬:行政の広報は公的目的で行われるものですが、人口減少に伴う歳入低下のなかで、最近は営利的な考え方が導入されるようにもなってきています。
地域活性化や人口流入をめざして「経営的な観点が必要になってきた」ともいえるかもしれません。

橋本:行政広報を民間企業との協業によって行う事例も多く聞かれるようになりました。広報をうまく活用できている自治体とそうでない自治体の違いはどこにあるのでしょうか。

牧瀬:昔ながらの公的マインドが強い自治体は、徹底的な公平性の担保など、従来の観点に「縛られている」ため、うまくいっていないように思えます。私自身は、公共セクターも新しい時代に合わせていくべきだと考えています。

橋本:新型コロナウイルスの状況でも「公平性」を優先するあまり様々な対応が遅れる場面がみられますが、こうした価値観を優先する方はどのようなことを大切にしているのでしょうか。

牧瀬:大切にしているものがあるというよりは、踏襲主義といえます。公平性にしても本来は「すべて網羅したうえで、どこをメインターゲットにするか」という議論がなされるべきですが、こうした新しい発想になじめない方は一定数いらっしゃいます。

橋本:そのような「民間的な発想」を導入すべきなのは、首長と担当部局のどちらでしょうか。

牧瀬:結論からいうと双方に必要ですが、まずは首長がそういった思考を持ったうえで職員も理解する、という流れが理想です。首長のなかには民間経験者も多いのでそうした発想をお持ちの方が多くいらっしゃいますが、それが職員レベルまで浸透していかない、という事例はやはり一定数あります。

行政広報と経営マインド

橋本:国内自治体の広報やシティ・プロモーションの取り組みで「ここが足りていないのでは」という点はありますでしょうか。

牧瀬:端的にいえば「経営マインド」ですね。利益追求の発想を持ち込むわけにはいきませんので、あくまでも経営の思考。「マインド」です。「かけた費用以上に回収する」という当たり前のことができている自治体がほとんどないのが実情です。

橋本:そういった考え方を自治体に根付かせていくためにはどのようなことが必要なのでしょうか。

牧瀬:一番大切なのは危機感を持つことですね。「このままいけば倒産する」ということが見えてくると意識が変わりますので、危機感の明示化・共有が肝要だと思います。

橋本:経営マインドと行政広報が重なり合う領域のひとつに、SDGsへの対応があります。自治体におけるSDGsへの取り組みの現状と課題についてご教示いただけますか。

牧瀬:SDGsについて、行政の現場では「新しい仕事をしなければいけない」という嫌悪感を抱く職員が少なくありません。そうではなくて、行政の場合、すべての業務が自動的にSDGsに関係するのだという事実は正確に認識すべきです。また、SDGsが市民に理解されていないという課題もあります。いわゆる「お役所言葉」から離れて、住民目線の言葉で説明する必要があるわけですが、この点にも広報の専門知識が求められます。

行政広報担当者のための学び

橋本:行政広報やシティ・プロモーションについて社会人に教える際、牧瀬先生が心掛けていることはありますか。

牧瀬:事例を中心に説明するようにしています。かつ失敗事例も扱うことで、多面的な学びを提供しています。

橋本:こうした分野に関する単発のセミナーに参加することと、大学院で授業を受けることにはどのような違いがあるとお考えですか。

牧瀬:私の授業でいうと政策提言がメインになりますので、短期間のセミナーでは実現できません。授業のなかで何度も発表を重ねて、最終的に首長に対して行政広報に関する提言をします。自身の提案をどのように社会実装できるか、という観点を身につけることができる点も大きく異なると思います。

橋本:牧瀬先生ご自身もご経験をお持ちですが、「社会人の学び直し」にはどのような意義や効果があるとお考えでしょうか。

牧瀬:私はもともと民間企業に勤めていましたが、周囲のレベルの高さについていくために学び直しの場に入りました。その効果は2つあると考えています。ひとつは進路の選択肢が広がるということです。私自身も大学教員や行政コンサルタントとしての道が開けました。もうひとつはもちろん、各分野を深掘りしてプロフェッショナルになれるということですね。

橋本:広報・情報研究科では「広報のプロフェッショナル」を養成していますが、牧瀬先生のお考えになる「広報のプロ」とはどのような人でしょうか。

牧瀬:行政広報の場合だと、いかに住民目線を獲得できるかが鍵です。政策の実効性を高めるためにも、それを市民に分かりやすく伝えるためにも、こうした視点をもったプロが必要です。

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