「広報課題」は「経営課題の一部」 ひとつ上の課題認識ができる能力を身につける

「広報課題」は「経営課題の一部」 ひとつ上の課題認識ができる能力を身につける

「マスコミ対応部署」から脱皮し、経営の一機能としての広報へと、目線を高めるには?
広報のプロフェッショナルを育成する、社会構想大学院大学 広報・情報研究科の柴山慎一教授と、橋本純次専任講師が語り合った。
 

経営者が「広報」を規定する

橋本:柴山先生は「インターナル・コミュニケーション」の重要性を主張されていますが、こうした問題の関心はいつからお持ちだったのでしょうか。

柴山:前職の野村総合研究所で2005年に広報部長として着任するまで、組織開発のコンサルティングに従事していました。とりわけ「従業員の満足度を高めて組織を活性化させる」というテーマに携わっていましたので、もともと「経営」という大きなテーマのなかで広報を位置づける、という発想を持っていました。ですので、外部のみならず組織内の広報にも目を向けるべきだという考え方がしっくりきたわけです。

橋本:最近はコロナ禍や社会の流動化のなかで「自社へのロイヤルティをどう高めるか」という関心をお持ちの経営者の方も増えていますね。一般論として、企業は広報部門の機能や役割を高めていくべきなのでしょうか。

柴山:それは経営者が広報部門に提示するアジェンダのレベルによると思います。「広報はメディア露出を高めればよい」という問題意識しかない経営者であればそのような部門になるでしらせていくことですね。広報への期待が小さいトップは「マスコミ対応部署」という定義を広報部門に与えているケースがあります。そうではなくて、社内・社外のコミュニケーション全般が守備範囲だということを事例とともに示す必要があります。その点では広報部門トップの役割も大きいといえます。
これは私の体験ですが、広報部長としての4年間の業務において、はじめは前任者からの引き継ぎのなかで粗相のないように動いていましたが、あるとき経営者から「組織が巨大化するなかで縦割り化が進んでいるのではないか」という問題意識を提示され、インターナル・コミュニケーションのテーマとして取り組みました。当時は広報部門が組織改革に取り組むのは珍しく、社内にも疑問の声がありましたが、自社における「広報部門」の定義が大きく変化するきっかけにもなりました。

広報×経営の視点を持つ

橋本:柴山先生からご覧になって、国内企業の広報担当者に不足していると思われる能力はありますか。

柴山:広報担当者の方向性には大きく2種類があると思っています。ひとつ目は「広報実務そのもの」を掘り下げて、テクニックを習熟させていくこと。
例えばライティング能力やマスコミとの関係性づくりですね。ふたつ目は「広報を経営の重要な機能として位置づけて、それを経営目線から大局的に捉える」ことです。長く広報担当者として活躍されている方は前者の能力に長けていて、実際にそれによって業務の円滑化が実現されることもあります。
他方で後者は、日々の実務をこなすなかでは学ぶ機会が必ずしも多くありません。こうした視点が身につくと、学びがどんどん広がり、深まる可能性を感じています。「広報×経営」の領域にこそ、単なるノウハウを越えた世界があるのではと考えています。

橋本:「経営目線の広報担当者」を育成するにあたって、柴山先生が気をつけている点はありますか?

柴山:自分の目線でそれぞれの業務を捉えるのではなくて、それが「トップからどう見えているか」という目線を持つことが重要です。「広報課題」とは「広報部の課題」ではなくて「経営課題の一部」であるはずなんですね。そのような「ひとつ上の課題認識」ができるような能力を身につけてもらいたいと思っています。例えばこれまでに指導してきた学生に社内報の担当者がいましたが、社内報担当者の仕事は「社内報自体の課題を解決すること」ではなくて「社内報を使って経営者は何をしたいのか考えること」であるというように、ひとつ目線を上げて自身の仕事を見直す機会を授業やゼミのなかで設けるようにしています。

「期待」を形成する広報

橋本:「経営課題として広報を捉える」というと必ず「広報の効果測定をどう考えればよいか」という点が議論になります。

柴山:「広報のKPI論」は永遠の課題ですが、ひとつは「経営者の満足度」だと思います。もうひとつは社外からの「期待」ですね。「認知度」以上に、社会が企業にどれだけ期待を持っているか、その中身はなにか、という事柄です。会社にとって、「なにをしているか」以上に「なにをしていると見られているか」が重要です。さらに言うと「どんな期待をされているか」はより大切です。人間というのは期待に応えようとする動物ですから、その集合体が組織だと考えると、「期待される」というのは大きな財産です。こうした社会からの「期待」をいかに形成するか。これは「メディア露出を増やす」といった役割とは別の次元の広報の仕事です。

橋本:広報・情報研究科では「広報のプロフェッショナル」を養成していますが、柴山先生のお考えになる「広報のプロ」とはどのような人でしょうか。

柴山:「広報のプロ」の必要条件は「基本的なテクニックや人脈を持っていること」。さらに必要十分になるためには「経営目線で広報を捉えるための視座を持つこと」が求められると考えています。
 

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