ベストプラクティスのない世界 リスクマネージャーに求められる素質とは

ベストプラクティスのない世界 リスクマネージャーに求められる素質とは

組織にまつわるリスクが多様化し、経験したことのない新たな危機が迫るなかで、
これからのリスク管理はどうあるべきか。広報のプロフェッショナルを育成する、
社会構想大学院大学 広報・情報研究科の白井邦芳教授と、橋本純次専任講師が語り合った。
 

リスクマネジメントとは何か

橋本:白井先生のご専門である「リスクマネジメント」は、ひとことで表現するとどのようなものでしょうか。

白井:リスクマネジメントというと「何をやってはいけないか」について考える仕事と捉えられやすいのですが、そうではなくて、何かをリスクとして考えたときに、それが起きないようにするというのが最も重要な点になります。いわゆる「予防管理」がリスクマネジメントの視点ということですね。
一方で、起きてしまったリスク事案について、被害の拡大を防ぐ方法を考えるのは「危機管理」といいます。リスク管理については、ある組織の体制や体力に応じて、自分たちがどれだけ我慢できるか、その許容度を測る視点と考えていただければと思います。

橋本:COVID-19や国際社会の情勢などの影響で社会が複雑化するなか、管理すべきリスクも多様化しています。新しいリスク事案に対する感度はどう
すれば磨けるのでしょうか。

白井:一般的にリスクは「経験しないと認知できない」とされますが、常日頃から「それがリスクになるのではないか」という視点で物事を把握してい
くことが重要です。リスク事案が偶発的に起きるのではなくて、理論や確率に基づいて発生することを理解すると
もいえます。

橋本:リスクマネジメントの面白さ、やりがいというのはどういうところにあるとお考えでしょうか。

白井:この分野にはベストプラクティスがないんですね。企業の体力や規模が異なるなかで、一つひとつの組織ができることの「境界線」をどこに置く
か。高度な専門性を有していないと判断することは難しいですが、面白いところです。

論理的に結論を下すスキル

橋本:広報担当者のなかでも、リスクマネジメントを担当する方に必要な能力はどういったものでしょうか。

白井:まずリスクの抽出段階では、やはり現在気づかれているリスクにとどまらない発想が必要です。例えば「風評リスク」はこれまで組織対応のまずさから発生するものと考えられてきましたが、現在はフェイクニュースなど、嘘の情報による被害が発生しています。
リスク管理の専門家は、リスクの実態が拡大することへのセンシティビティ(敏感さ)と、新たなリスクの内容を分析し、対応の優先順位を判断するための知見を身につける必要があります。
結論ありきで物事を考えるのではなく、タイムマネジメントのなかで論理的に結論を下す能力も求められます。

橋本:そうだとすると、リスク担当者の持つべき資質や能力は時代によって異なるのでしょうか。

白井:そうですね。1980年代から2000年初頭までは「ヒヤリハット型」といって、なにか事故が発生した際にそれをリスクと考える、つまり経験した事柄に基づいてリスクを想定する発想が主流でした。ただそれだと、先ほどの風評リスクのようなものは想定外になってしまいます。
現代のリスク担当者は、同業他社や全く業種の異なる組織の業務にも目を向けつつ、まだ自分たちが経験していないリスクを想定し、検証し続ける必要があります。
こうした発想力が重要な素養として位置づけられるようになりました。

橋本:白井先生が国内組織の広報担当者や広報部門をご覧になっているなかで、どういった点が不十分だと思われますか。

白井:リスク事案について「正しい広報をしたいけれどもできません」「メディアの攻撃対象になってしまうので何も言えません」「上長も説得できません」「表現の仕方も分かりません」という方が圧倒的に多いんです。広報の正義がどこにあるかというと、正しいことは正しい、間違いは間違いと言うべきなのでしょうが、これができる方は実は極めて少ないです。

学び直しで応用力が高まる

橋本:そういった悩みをもっている方が、社会構想大学院大学に在籍されているわけですが、白井先生が「実務家教員」として学生の指導にあたる際に心がけていらっしゃることはありますか。

白井:「ナマモノ」ともいえる広報の世界において、時代の趨勢や外部環境の変化、さらには法律の改正などを踏まえつつ、「どのステークホルダーに・どんな内容を・どのタイミングで伝えるべきか」という点を学生自ら考えられるようにすることが私の役割だと考えています。

橋本:広報担当者の学びというとセミナーの受講や独学が一般的な方法ですが、大学院で学び直すことの意義はどのようなところにあるとお考えでしょうか。

白井:セミナーは座学が中心で、かつ短期間ということになりますので、事例を含めて網羅的に学びを提供することになるかと思います。大学院の場合は、例えば15回の授業のなかでシミュレーショントレーニングができるんですね。実際にリスクに直面した際に多様な選択肢を準備できるような訓練を積み、応用力を高めることができます。

橋本:広報・情報研究科では「広報のプロフェッショナル」を養成していますが、白井先生のお考えになる「広報のプロ」とはどのような人でしょうか。

白井:いま起きている事象に対して説明をするだけではなくて、将来発生しうるリスクの全体像を俯瞰して説明責任を果たせる方だと思います。国民目線を持って社内外のステークホルダーとコミュニケーションをとっていく。大局観をもったコミュニケーション人材を「広報のプロ」と呼ぶのではないでしょうか。

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