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どこまでローカライズするべき?日本企業のグローバル進出におけるマーケティング戦略

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2014年11月から活動をしてきた「CMO CLUB」は、活動内容が進化を遂げるのに合わせて2021年からは「CMO X」 に名称を変更。現在では100社を超えるマーケターが集うコミュニティとして成長を続けてきました。2020年4月からは「マーケターの、マーケターによる、マーケターのための組織」を目指し、選出されたボードメンバーが中心となって組織の運営を進めています。2021年は5名のボードメンバーがそれぞれのマーケティング課題を提示し、その課題に共鳴するメンバーが集い、半年にわたり分科研究会を実施。その議論の成果が披露された11月8日、9日開催の「CMO X FORUM」についてレポートします。

 
自動車、家電などの製造業を中心とした海外進出で成功体験を持つ日本企業。いま、海外に進出する企業の業態も多岐にわたっている。日本の企業がグローバル展開する際のマーケティングの課題とは何か?そしてその解決の道筋とは? CMO X WORLDはサンリオの木村真琴氏がリーダーを務めてディスカッションを重ねてきた。

木村:私たちのチームでは日本の企業がグローバル市場に進出していく際のマーケティング戦略の課題とその解決の方向性について、各社の取り組みをもとにディスカッションを重ねてきました。日本市場で成功体験を持っていても、それが海外の市場で通用するとは限りません。国によって市場環境はもちろん、ブランドのポジショニングも異なる中で、どう戦略を組み立てていけばいいのか。本日は残念ながら欠席ですがヤマハの大村さんも入り4名で半年にわたり議論を重ねてきました。まず私が所属するサンリオの取り組みから紹介します。

当社はハローキティを中心に事業を展開し、2000年頃に米国を中心に著名セレブリティにハローキティが支持され、海外でのライセンス売上が全社の売上、利益を牽引するという時期もありました。ただ海外市場における課題は、“デザイン”という側面でキャラクターが捉えられている点。日本と異なり、背後にある世界観といったところまでは理解が進んでいないことを課題に感じています。次にVAIOの花里さんから取り組みを紹介いただけますか。

 
花里:私たちVAIOは2014年6月末でソニーでのビジネスを終了し、翌月に別会社を設立して事業展開を進めてきました。ソニー時代は全世界80カ国以上で事業展開していましたが、別会社設立に合わせて、こちらの活動も一時ストップ。

しかし海外にもVAIOの熱烈なファンの方がいて、現在は23カ国で展開するに至っています。国外においても、輝きを失ってはいないブランドの力を実感しましたが、人的リソースが豊富な会社ではないので、展開の仕方は工夫が必要だと考えています。そこで現在は各地域のPCメーカーにライセンス提供する形もとっています。

ただ米国などは、私たちが製造した商品を直接販売していますし、地域に合わせてハイブリッド型の展開をしています。

 
木村:ここでヤマハのケースを今日は大村さんに変わって私から紹介します。ヤマハさんは参加メンバーのなかで最も古い60年前から海外進出しており、現在30カ国で展開。各地で特約店と契約し、主にBtoBtoCの販売モデルを構築しています。第1段階では商品の品質の高さと各地で音楽教室も展開し、情緒的な価値と合わせて訴求。その後、海外売上比率が高まるなかで最近、ブランド戦略を刷新し、グローバルスタンダードを確立させたそうです。そして現在は次のステージに進んでいて、VIのルールは徹底させながらも、各地域でローカライズしたコミュニケーション展開の実現を目指しているそうです。

寺田:森永乳業は複数のプロダクトブランド、事業で海外展開している点が他の3社と違うなと思いました。BtoCだけでなく、BtoBの事業も展開していて、乳原料やラクトフェリンのような機能性の素材の販売もしています。BtoCの事業は、東南アジアを中心に粉ミルクの販売からスタートしています。現在、大きな課題を持っているのが米国の豆腐事業。1985年から進出していて、日本食ブームに乗って売上を伸ばしてきたのですが、健康のために豆腐を食べる方だけを対象にすると市場は狭い。まだ豆腐を食べたことのない人に対して新しい売り方をすべき時が来ています。そこで最近は、「プラントベースドフード」という切り口で新しいブランド戦略にチャレンジしているところです。ただこうした戦略の組み立てに日本の本社がどこまで口を出すべきか、は悩みどころです。

木村:VAIOの場合は、ライセンス契約もありますが、本社との関係性について課題はありますか。

花里:ライセンス契約による販売はブラジルから始まったのですが、これはローカル企業のトップがVAIOのファンで、思い入れをもってアプローチしてきてくれたことから始まりました。ただ、私たちが考えるブランドイメイメージとブラジルにおけるそれは、やはり違う。ブランドをマネジメントしようとクリエイティブの監修もしたりしますが、すり合わせは難しいですね。

寺田:日本の場合はコーポレートブランドが確立されているので、ブランドと社会との関係性ができあがっている状況で、マーケティング活動を行うことができます。しかし海外の市場では、商品のマーケティング戦略と合わせて、森永乳業が進出先の国に対して、どのような価値を提供できるのかを示さなければなりません。豆腐をプラントベースドフードとして打ち出す背景にも、こうした理由があります。企業が社会と結びついてないのに、商品だけ売るというのは難しいのだと思います。

 
木村:サンリオの場合も、デザインとして受け入れられているので、商品は売れる。しかし、その地域に根を張るようなブランドが構築できていないために、せっかく火がついても一過性のブームで終わってしまいかねないという懸念を抱いています。ちなみに森永乳業さんでは、これら2つの活動を本社側で見ているのですよね。

寺田:はい。特にブランドと社会の関係性づくりは、国ごとで全く異なり、これは本社が主導しないとできないことではないかと考えています。ただ、本社が指示を出すだけでなく思いに共感してもらいともに動くチームをつくる必要を感じています。

花里:VAIOでは各地のパートナー企業が集まるグローバルサミットを実施しています。日本と各国の状況も異なりますが、集まる地域同士もすべて文化が異なる。VAIOというブランドのもとで、異なる文化を持った各地のパートナー同士もひとつにならないといけないな、と思います。

木村:そのミーティングは本社の考えを伝えることが主な目的ですか。

花里:現地からの要望をヒアリングする場でもあります。極力、双方向のコミュニケーションになるよう努めています。

寺田:そこが重要ですよね。関係は、コミュニケーションの蓄積でしかつくれませんから。

木村:コロナ禍があり、具体化はできませんでしたが、私たち4社の日本企業が組んで、特定の国を想定して、日本から来た企業として協調して、その国に提供する価値を提示できないかといった意見もでましたよね。例えば、ヤマハさんは楽器を販売しているだけでなく、その基盤となる音楽という文化を世界に広めていく。そういう姿勢で海外進出をしてきたという話をされていたのですが、今後日本の企業がその国の社会に提供できる価値を皆で議論してみるのも良いかもしれませんね。
 

サンリオ
CMO マーケティング本部長
木村 真琴 氏

VAIO
コンシューマー営業本部 本部長
花里 隆志 氏

森永乳業
海外事業本部 海外事業企画部 部長
寺田 文明 氏

ヤマハ
執行役員 ブランド戦略本部 本部長
兼 マーケティング統括部長
大村 寛子 氏