5回目を迎えた2021年のコラムテーマは「多様性」。OOHは、さまざまな思い、さまざまな価値観を持つ人々が共にする空間をメディアとして、メッセージを発信します。再び賑わいを取り戻そうとしている街や交通機関を行き交う人々は決して同質ではなく、それぞれのバックグラウンドがあります。このリレーコラムでは、そんな場をメディアとしている、OOHならではのコミュニケーションについて、つづっていきます。第2回の担当は、Polarno アートディレクターの相楽賢太郎氏です。
世の中がなにかの混乱に襲われたとき「広告は世の中に必要な仕事か。」というのが、界隈でいつも話題になります。ときに無力感に苛まれるときもありますが、一方で“必要”だけが価値であるということにもなんだか疑問があって、「不必要だけど価値をもつ仕事」というのもあるんじゃないかなと思っています。
世の中のしごとをざっくり分類すると、マイナスを0に戻すものと0にプラスを与えるものがあると思っていて、医者とか、消防士とか、警察官とかマイナスの状態を0に戻すことができる仕事なのかなと思っています。
じゃあ広告の仕事にそういうことができるかというとそれはなかなか難しいことだなと思っていて、でも、逆に0にプラスを足す力をもった職業ではあるんじゃないかと。
なにがプラスかっていうと、それは色々で“社会的な意義”だったり、“面白さ”だったり、“見惚れる美しさ”であったり…つくり手によって多様だと思っているのですが、そこになにかの意味があることがとても大事です。
広告は他者の時間を半強制的に奪うもので、その“プラス部分”に責任がある。
そこを放棄して売上があがればなんでもいい。というものになってしまえば、“広告”の社会的な信用や価値は減っていく一方です。自分が作るときは、今作っている広告の価値、意義は、なんなのか。というのをいつも考えています。
一方で広告には、0をマイナスにする。もしくはマイナスをマイナスのままにする。という危険性もあります。特に、広告の先入観を植え付ける力は大きく、間違った価値観を啓蒙してしまう可能性もある。今回のテーマのダイバーシティ&インクルージョンというものに広告が寄与するとしたら、プラスの部分ももちろんですが、このマイナスを生まないことがとても大きなことだと思います。
“ダイバーシティ&インクルージョン”というテーマは人類がつくってきた先入観との戦いでもある。そのワードを、都合のよいマーケティングワードとして消費・利用するのではなく、広告というものがもってる危険性をきちんと認識し、企業ごとの根っこをつよく認識しながら、丁寧に丁寧に向き合って行かねばいけないなと感じています。
Polarno
アートディレクター
相楽賢太郎
1985年新潟生まれ。アドブレーン、電通への出向を経て、独立。2018年Polarno(ポラーノ)を設立。主な仕事に、ルミネ「ほめよう、わたしたちを。」ソニー「ソニーは君と組みたい。」ソフトバンク「しばられるな」クロレッツ「クロレッツのかたち」などの交通広告や宮本浩次、RADWIMPS、ハルカミライなどのCDジャケットのデザイン。峰乃白梅酒造のブランディングデザインなど。
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